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IT企業に衣替えしたワシントン・ポスト社〈連載第8回〉

Amazonのシステムを移植し外販、デジタル時代の「規模の経済」を追求

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

 ここで国内報道メディア界へのワシントン・ポスト(WP)社を新規参入勢力の脅威とみなして分析を進めたい。

連載の初回~第7回はこちら

 実際に同社が日本国内の報道メディア界への進出を試みている事実はない。ただし、将来的な外資規制の緩和や撤廃などの法改正に伴って、グローバル・ハイテク企業のAmazon社やその創業者のジェフ・ベゾス氏のような人物が、日本の報道メディアを買収するなどで新規参入することは可能性としてはあり得る。

 斜陽化しその機能不全が指摘される国内報道メディア業界への新規参入は、その業界内の活性化すると同時に競争激化を招く。結果として、業界全体の長期的な収益性は自ずと低下する。国内報道メディア業界への新規参入ではその業界に存在する参入障壁を克服することが求められる。裏返せば、これらを凌駕する能力があれば、国内報道メディア業界に新規参入も可能となろう。この参入障壁には、主に「規模の経済」「業態や商品の差別化」「新規投資の規模」が存在する。

 「規模の経済」とは、生産規模を拡大したとき、産出量が規模の拡大以上に増大することを指す。これは生産工程だけでなく広告効果などにも存在する。つまり、新規参入者は規模の経済が奏功する生産規模を確保する必要がある。次に「業態や商品の差別化」が存在する場合、その業界内でブランド化が進み、個別の報道メディアに対する顧客のロイヤリティが高い状態が存在する。このため、新規参入勢力には通常よりも追加的な投資が必要になる。そして、「新規投資の規模」が大きいほど参入障壁が高いといえる。

 新規参入での障壁には他にも存在するので簡単に述べたい。その一つが「スイッチング・コストの存在」である。ある報道メディアから別の報道メディアに乗り換える際の手間や時間、費用をスイッチング・コストという。これが高いと参入障壁になる。また「流通チャンネルの確保」も参入障壁となる。

 国内新聞業界に参入する場合、販売店や駅のキオスクといった流通チャンネルを押さえることが必要になり、これが参入障壁となる。「規模以外のコスト面での不利」もある。新聞社内に蓄積された特別な取材ルートや取材技術といった暗黙知・インタンジブルや、取材拠点の立地条件、政府の補助、そして国内で情報アクセスに重要な意味を持つ記者クラブへの参加資格などが参入障壁となる。

 「国家政策の存在」も参入障壁である。国内では放送法やNTT法でこれらの業界への外資規制がある。外資規制は諸外国にもあり、例えば米国では国家の安全保障への脅威が認められると連邦政府が判断すれば業種を問わず外資参入を阻止できる。

 これらに加えて、「既存業者の理不尽さ」がある。既存の報道メディアにとって短期的あるいは局所的にも、総合的・全体的にも、新規参入を拒むことが合理性を伴わない場合もあり、これが参入障壁となる(Porter, 1985&1998)。

 以下ではWP社が持つ競争優位でもっとも特徴的な「規模の経済」について分析していく。

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Nicole Glass Photography/shutterstock拡大Nicole Glass Photography/shutterstock

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筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論、社会疫学。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。五輪専門メディアATR記者、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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