Amazonのシステムを移植し外販、デジタル時代の「規模の経済」を追求
2022年08月03日
ここで国内報道メディア界へのワシントン・ポスト(WP)社を新規参入勢力の脅威とみなして分析を進めたい。
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実際に同社が日本国内の報道メディア界への進出を試みている事実はない。ただし、将来的な外資規制の緩和や撤廃などの法改正に伴って、グローバル・ハイテク企業のAmazon社やその創業者のジェフ・ベゾス氏のような人物が、日本の報道メディアを買収するなどで新規参入することは可能性としてはあり得る。
斜陽化しその機能不全が指摘される国内報道メディア業界への新規参入は、その業界内の活性化すると同時に競争激化を招く。結果として、業界全体の長期的な収益性は自ずと低下する。国内報道メディア業界への新規参入ではその業界に存在する参入障壁を克服することが求められる。裏返せば、これらを凌駕する能力があれば、国内報道メディア業界に新規参入も可能となろう。この参入障壁には、主に「規模の経済」「業態や商品の差別化」「新規投資の規模」が存在する。
「規模の経済」とは、生産規模を拡大したとき、産出量が規模の拡大以上に増大することを指す。これは生産工程だけでなく広告効果などにも存在する。つまり、新規参入者は規模の経済が奏功する生産規模を確保する必要がある。次に「業態や商品の差別化」が存在する場合、その業界内でブランド化が進み、個別の報道メディアに対する顧客のロイヤリティが高い状態が存在する。このため、新規参入勢力には通常よりも追加的な投資が必要になる。そして、「新規投資の規模」が大きいほど参入障壁が高いといえる。
新規参入での障壁には他にも存在するので簡単に述べたい。その一つが「スイッチング・コストの存在」である。ある報道メディアから別の報道メディアに乗り換える際の手間や時間、費用をスイッチング・コストという。これが高いと参入障壁になる。また「流通チャンネルの確保」も参入障壁となる。
国内新聞業界に参入する場合、販売店や駅のキオスクといった流通チャンネルを押さえることが必要になり、これが参入障壁となる。「規模以外のコスト面での不利」もある。新聞社内に蓄積された特別な取材ルートや取材技術といった暗黙知・インタンジブルや、取材拠点の立地条件、政府の補助、そして国内で情報アクセスに重要な意味を持つ記者クラブへの参加資格などが参入障壁となる。
「国家政策の存在」も参入障壁である。国内では放送法やNTT法でこれらの業界への外資規制がある。外資規制は諸外国にもあり、例えば米国では国家の安全保障への脅威が認められると連邦政府が判断すれば業種を問わず外資参入を阻止できる。
これらに加えて、「既存業者の理不尽さ」がある。既存の報道メディアにとって短期的あるいは局所的にも、総合的・全体的にも、新規参入を拒むことが合理性を伴わない場合もあり、これが参入障壁となる(Porter, 1985&1998)。
以下ではWP社が持つ競争優位でもっとも特徴的な「規模の経済」について分析していく。
新聞の販売を主体とする朝日新聞社など国内新聞社の財務構成を分析すると、建物や機械にかかる費用や人件費など固定費負担が大きく、損益分岐点が高止まりする装置産業的な特徴がある。これは大量生産・大量販売向きの企業形態であり、規模の経済が存在する場合にレバレッジが効いて収益力が向上する。これは放送局も同様である。
国内新聞社は高度経済成長期に印刷工場や記者陣容の大型化に努めたため固定費割合が急激に高まった。国内メディア業界の拡大成長期には、これは有効な経営戦略だった。だが、縮小均衡期に入った現在はあだとなり企業経営を圧迫している。負のレバレッジ効果が表出してしまうため、収益性をより大きく低下させてしまうのである。
すでにこの業界は競合相手がひしめき、低収益に苦しむレッド・オーシャン化している。紙の新聞からデジタル版への移行などIT化を徹底すれば報道メディアも劇的な変革とコスト削減が可能である。この局面では早急な固定費の最小化が求められるが、国内では人員削減や報酬カットが難しい。
余剰人員は異動か転職に迫られるが、組織特異的な知識と技能のみを身に付けた人材はこれが困難であるほか、過去の栄光にしがみつき、失敗を認められない「サンク・コストの罠」に拘泥してしまう場合もある。こうして国内報道メディア界の改革が遅々として進まない、あるいは頓挫しているのが現状である。
WP社は米国の首都ワシントンDCにある地方新聞社であり、政治報道分野では定評があるものの、グローバル規模での競争優位は乏しかった。この状況下でWP社が印刷媒体のみでビジネスを進める場合、規模の経済による競争優位は築きにくい。だが、IT革命でこれが一変した。
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