新生ワシントン・ポストは「ジャーナリズムの独立」を守れるか〈連載第9回〉
ベゾス氏買収後の株式非公開化は、諸刃の剣
小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長
今回はワシントン・ポスト(WP)社の競争優位としての「業態や商品の差別化」と「新規投資の規模」、そして報道メディアとしてのコア・コンピタンスを支える「ジャーナリズムの独立の倫理」について述べていきたい。
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業態と商品の差別化
競争優位論が説く企業戦略とは、完全競争市場の中から不完全競争状況のポジションを見いだし、あるいは創造することにある。完全競争市場とは数多くの売り手が存在し、買い手がその製品・サービスが同質の汎用品(コモディティ)であると認識し、市場全体の生産規模が需要を上回っているという市場を指す。
この完全競争状態から、業界平均以上の利益を上げるために企業は製品・サービスの差別化を図り、「不完全競争」のポジションを見つけ出すことが肝要となる(Porter, 1985&1998)。
WP社は政治報道を維持強化して報道メディアとしてのポジショニングを明確にして、選択と集中で差別化を図った。同時に、DXの抜本的な導入で業務フローを一変させつつ、報道メディア業務とシナジー効果が期待される新たな収益源を確立していった。ここに「業態と商品の差別化」という特徴が見て取れる。
WP社はもともとの地政学的な利を得て、政治報道で競争優位を保っていた。これをコア・コンピタンスとして、ネット・メディアを通じてグローバルに展開した。同時に、地域報道など発展の見込めない分野は通信社やストリンガー(契約記者)にアウトソーシングしていった。また、収益が落ち込んでいった新聞紙面の広告事業は縮小した。
一方で新規事業としてのArc XPの開発と外販で親和性のあるメディア・ビジネス間でシナジー効果を生み出した。これらに加えて、WP社が採用した戦略はAmazon社が得意とする顧客経験価値(CX)の最適化というデジタル・マーケティングの徹底活用であった。
これが商品としての記事の差別化につながった。WP社のブランド価値を高め、完全競争状況から不完全競争ポジションを発掘したのである。WP社は1996年から無料で提供していたデジタル版の閲覧を2013年に有料化した。この際、WP社は過去からは似て非なるものとして生まれ変わった。
この詳細についてみていこう。

Sharaf Maksumov/shutterstock