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旧統一教会に宗教法人の資格があるのか吟味を

安倍元首相殺害を、犯罪学と、日本の古の掟から読み解く

河合幹雄 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

 安倍晋三元首相の殺害について、早急にひとつの正しい解釈を求めるより、様々な受け止め方を見聞きし、幅と深みのある理解にたどり着くことができればと考えている。既に、有識者のコメントが幾つも発信されているのはありがたいことである。ただ、政治的、社会的影響の大きさゆえ、案外、殺人事件としての地に足の着いた検討や意見が不足しているように思う。

 私は、殺人事件を犯罪学から研究する者として、結論を急ぐことなく、この事件を殺人事件と政治テロ・暗殺として見た場合、どのように特徴づけられるか、考察し、議論の素材として提供してみたい。

殺人事件としての特徴

 最初にすべき検討は、殺人事件として何が特徴か明らかにすることである。結論を先取りしておけば、実は、この事件は、殺人事件に見られる一般的特徴をことごとく備える。その意味では「普通」の事件である。

 日本の殺人事件は、過半が家族内、身内で起きる。今回なら、山上徹也被疑者が、恨んでいるという母を殺害するパターンである。父も兄も自殺しているが、これは一つ間違えば、家庭崩壊の元になった母を、父や兄が殺害していたかもしれないとみてよいであろう。だが、山上被疑者も、父、兄と同様、母は殺せなかった。むしろ、母も世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者と見えていた。そのため攻撃対象は、旧統一教会となったということであろう。

 問題は、旧統一教会への復讐(ふくしゅう)・反撃が、なぜ安倍元首相になったかである。殺人事件としての基本的なことを飛ばして、安倍元首相や旧統一教会の話を始めるひとが多いが、その割には旧統一教会についての認識が甘い。私は、何十年も以前から悪質商法(『現代のエスプリ 悪質商法』参照)という広い枠組みで、カルトを犯罪として研究し、実際にそれらと戦ってきた。悪質商法と呼ぶよりマルチ商法、ネズミ講の類という方が分かりやすいかもしれない。具体的には朝日ソーラーやら日本アムウェイ問題である(以下の概略を参照)。

〈朝日ソーラー問題〉
 訪問販売で高額の太陽熱温水器等を、強引な販売手法で売りつけ、1997年には国民生活センターから問題企業として社名公表された。
〈日本アムウェイ問題〉
 様々な商品を、マルチ商法的な手法で販売している問題点を、国民生活センターが指摘し、メディアにも大きく取り上げられた。

素材ID	20220726TSHK0088A拡大旧統一教会の問題を追及する紀藤正樹弁護士=2022年7月26日、東京・永田町
 そのため、旧統一教会と戦う紀藤正樹弁護士とは、当時から親交がある。カルトの説明は簡単ではなく、だからこそ多くの人がひっかかる。本当に理解するには、ご自身で何冊も書籍を読んでいただくしかないが、カルトと戦ってきたものの共通認識だけ紹介しておきたい。以下、カルトについての一般論である。

検挙されにくいカルト主導者

 宗教団体を名乗っていてもマルチ商法でも同じだが、勧誘されて信者となった者は、目を輝かせて活動し、自分の周りの者を引き込む。自分も被害者だが、加害者でもあるというのが、カルト信者の悲劇である。目が覚めたとき、自分の加害性に気づき、自分にとって大事な人や家族を、どれだけ苦しめたかわかるため、自殺に至ることがある。山上被疑者の家族だけでなく、大量の自殺者を出しており、大量殺人者と比較すべきであるほど悲惨な結末を生み出している。

 もちろん、カルトはオウム真理教のように本当に大量殺人することもあるのだが、「賢い」連中は、手をかけない。つまり、刑法上、凶悪犯罪になりにくい。もし、犯罪者の内心まで立ち入ってみたら、カルトの幹部ほど悪い犯罪者あるいは、反社会的な人は他にいないというのが、カルト研究者の共通認識である。一般に反社会的勢力と呼ばれる人たちは、彼らと比較すれば稚拙な暴力を振るうので犯罪者として検挙されやすく、カルトの主導者は、そう簡単に検挙されないという認識である。

なぜ騙されるのか

 カルトの問題で、多くの人が理解できないのは、なぜ騙(だま)されるのかである。この疑問は、しばしば、騙された側に責任があるのではという連想につながり、カルト対策がおろそかになる。

=shutterstock.com拡大=shutterstock.com

 カルトと戦ってきたものの共通認識は、基本的に狙われたら、ほとんどの人が勧誘されてしまうというほどカルト側は巧みな勧誘技術を持っているというものである。集会などに、のこのこついて行ったらもうダメである。見事な勧誘マニュアルがあることが確認されているが、そこから、後の分析に必要になる重要な2点だけ述べておこう。

 第1点は、証明できないうえ、ウソくさく思われるのでカルト啓蒙(けいもう)書では省かれる内容である。この見事な勧誘方法というより、洗脳方法を作ったのは、おそらくCIA(米中央情報局)だということである。

 CIAに言わせると、毛沢東が、元中国の幹部たちを共産主義者に心を入れ替えさせる清風運動を成功させたのに脅威をいだき、それを洗脳と呼んで研究せざるを得なかったということである。世界中の多くの若者が共産主義に魅了されていた時代があったことを想起しなければならない。それに対抗する研究成果、対共産主義の逆洗脳方法は、洗脳方法そのものであり、これがCIAの外部に持ち出され、カルト集団が使っていると推察されている。騙す側は、信仰者ではなく、科学的な方法論によって洗脳するのである。

 第2点は、勧誘の際に、警戒心を解かせ、信用力を上げるために、広告塔を用いることが常道となっていることである。朝日ソーラーのときは俳優の西田敏行をCMに起用していた。有名なカルトであるサイエントロジーの広告塔にされたとしてトム・クルーズが批判されたこともある。このような広告塔になる人物は、勧誘マニュアルの幾つかの手法のひとつの典型的な道具であり、広告塔の意思とは関係なく、見事に活用されて被害拡大につながっている。広告塔とされた人物は、本人は軽い気持ちで使われている場合もある。


筆者

河合幹雄

河合幹雄(かわい・みきお) 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

1960年、奈良県生まれ。京都大大学院法学研究科で法社会学専攻、博士後期課程認定修了。京都大学法学部助手をへて桐蔭横浜大学へ。法務省矯正局における「矯正処遇に関する政策研究会」委員、警察大学校嘱託教官(特別捜査幹部研修教官)。著書に『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学』『日本の殺人』『終身刑の死角』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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