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アメリカ取材からウクライナへと地球半周

[7月26日~7月31日]C・トルーマン・ダニエルさん、旧統一教会元幹部……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

7月26日(火) 午前中に『報道特集』の定例会議にオンラインで参加。その後、局に出かけて、ウクライナ取材の内容の最終打ち合わせ。さくさくと実務的に行えてよかった。会議や打ち合わせは、やはり実際に対面でする方がはるかに内容が豊かになる。だが現下のコロナ蔓延。第7波がすでに目に見える形で身近に迫ってきているのを実感する。感染者の激増ぶり。

 16時すぎから沖縄国際大学のオンライン授業。前期の最終回になる。正直に言えば、長年お世話になってきた沖縄への恩返しという意味合いも込めて沖国大での授業を始めたのだが、やってみると非常にやりがいがあり、なおかつ学生たちもこちらの問いかけに答えてくれたように思う。前期最終回もつつがなく終了。感謝。

 TBSの局舎内で、JNNの須賀川拓中東支局長に廊下で二度出くわす。一時帰国しているのだという。来週はアフガニスタンのカブールに入る予定だとか。徹底した現場主義の記者であるとともに、この記者はテレビに新しいナラティブ(話法)を導入した点が面白い。

CSのTBSニュースの番組より 須賀川記者のイエルサレム中継CSのTBSニュースの番組より、須賀川拓記者のイエルサレム中継=筆者提供
 彼は、原稿を書いてそれをきちんと読むというスタイルとは対極の、生中継でずっとしゃべり続けるのが大好きかつ得意なのだ。だから新聞的な原稿としては使えないが、でも現場を最もリアルに伝えている。僕は、これをラジオ的なスタイルだ、と思っている。

 以前、彼が登場したイエルサレムからの全編生中継番組をCSでみたことがあるが、イスラエル軍の検問所をハンディカメラを持った寺島尚彦カメラマンと一緒に、生中継でずうっとしゃべり続けながら、X線検査機を難なく潜り抜けた時のリポートには、思わず見ていて拍手したくなった。 

 こういうナラティブは伝染する。その後、ワシントン支局コンビのホワイトハウス内部中継やら、秌場(あきば)聖治ロンドン支局長のロンドン中心部練り歩き中継やら、本当に面白い。

 統一教会関連で、ジャーナリストの鈴木エイト氏と電話で少し話す。講談社I氏。

加藤智大死刑囚に刑を執行、国家の意思表示

7月27日(水) 今回はちょっとだけ長い出張のため、大きめのスーツケースに衣料などをパッキング。常々感心することの一つは、旅慣れた記者ほど持っていく荷物が少ないことだ。僕はダメだ。服装を考える。行き先の気温をチェックしたら、シカゴは28℃―20℃、NYは31℃―24℃、ワシントンDCは30℃―21℃、ウクライナのキーウ(キエフ)も似たような気温でひと安心。アメリカ取材のコーディネーターのIさんと詰めの電話打ち合わせで要点チェック。

傍聴券が当たったTBS取材チーム傍聴券が当たったTBS取材チーム=筆者提供
 今日は大阪地裁で午後から赤木雅子さんの本人尋問がある。本当は立ち会いたかったが、断腸の思いで諦めた。TディレクターとMカメラマン、VEのAが大阪に撮影・取材に行っている。信頼しているので全面的に任せる。3人とも傍聴券が当たったと写メを送ってきてくれた。

 午前11時に家を出て成田まで移動。その移動中にメールで訃報が入る。「放送人の会」の理事で元TBSの大先輩の伊藤雅浩さんが死去された。いつも笑顔を絶やさぬ温厚な人だった。古きよき時代のTBSの人。合掌。

 17時に機内に乗り込む。まずはアメリカのシカゴへ。シカゴ在住の、原爆投下を命じた米大統領ハリー・トルーマン大統領のお孫さんダニエルさんにインタビューするのだ。

 機内でよせばいいのに映画をみてしまう。ひとつは『ウエスト・サイド・ストーリー』。スピルバーグの157分版。僕はオリジナルの方がいいや。もうひとつが、これが奇妙な味の映画なのだが台湾映画『American Girl』(『アメリカから来た少女』)。アメリカの西海岸から「故国」の台湾に帰国した女子高生がどうしても台湾式になじめない。家族も夫婦の間が不安定に。夫はメインランドの中国に出稼ぎに出ている。台湾式教育が日本顔負けのすさまじい管理教育で、主人公がどんどん孤立していく。

 映画で時間をつぶしていたら、何とシカゴのオヘア空港周辺が悪天候で、上空を飛行機が旋回。とうとう着陸を諦めて、近くのロックフォード空港に着陸する。そこで燃料を給油して、天候の回復しだいでオヘア空港への着陸に再チャレンジするという。あらら。それでシカゴ到着が予定よりも3時間遅れた。

給油のため着陸したロックフォード空港給油のため着陸したシカゴのロックフォード空港=撮影・筆者

 入国は実にスムーズにいく。とにかく日本を出たことを実感するのは、周りの誰一人マスクをしていないことだ。空港近くのホテルに直行。ホテルもレセプションからゲストまで誰一人マスクなんか全くしていない。こういう時、僕はいつも時差調整が苦手で、ずうっと時差ボケのまま取材を続行する羽目になる。だから無理やり眠る。

 秋葉原事件の加藤智大死刑囚に死刑が執行されたことを知る。安倍元首相銃撃・殺害事件と無関係ではあるまい。国家の意思表示。

加藤死刑囚の刑執行を報じた朝日新聞加藤智大死刑囚の刑執行を報じた朝日新聞2022年7月27日付=撮影・筆者

トルーマン大統領の孫、ダニエルさんと原爆

7月28日(木) 未明に目が覚める。ホテルで朝食を済ませてから、クリフトン・トルーマン・ダニエルさんへの質問事項を紙でプリントアウトしようとビジネスセンターを探すが、プリンターがトナー切れになったままかなり長期間放置された状態になっていた。レセプションに頼んだら、「プリントアウトならメールしろ」とアドレスを渡された。そうか、今どき紙にプリントアウトなんかしないんだろうな。

 午前8時過ぎに、コーディネーターのIさん、カメラマンのSさんと合流。この2人とはバイデンが辛勝した2020年の大統領選挙でもご一緒したので超安心だ。Sさんは、米ABCのホワイトハウス担当プール・カメラマンをこなすなど、ワシントンDC在住の日本人カメラマンのなかではピカ一の経歴の女性だ。もう長いお付き合いだ。2002年に僕がワシントン支局に赴任した時は、彼女はテレ朝のワシントン支局で働いていたが、カメラマンではなかった。えっ? あれから20年か。エアフォースワンに乗った邦人テレビカメラマンなんて、僕は彼女以外に聞いたことがないけど。

 空港から車で近い場所に住んでいるクリフトン・トルーマン・ダニエルさんにインタビュー。年齢は僕より3歳下の65歳。絵本『サダコと千羽鶴』と出会ったことをきっかけに、彼は被爆者との交流を重ね、広島・長崎を訪れ、今では確固とした核廃絶論の立場をとっている。

 お天気がいいこともあってか、ダニエルさんのお住まいのベランダでインタビューを設定したのはよかったが、空港に近い場所がら、インタビュー中に何度も上空を航空機が行き来し、そのたびにかなりの音が飛び込んできて、まいった。時間が限られていたので、今更設定場所を変更もできず、さらに具合の悪いことに、インタビュー中にゴミ収集車がやってきてすごい騒音をたてられたのには、まいった。でもひるまずにインタビューを続けた。核シェアリング論についての話を聞くことが主眼だった。

 もうひとつ、僕の脳裏にはトルーマン大統領のある映像があった。アメリカ映画『アトミック・カフェ』のなかのそのシーンは、原爆投下に関する米国民向け演説を収録した際のものだった。彼はにやにやと笑っていた。原爆投下を最終決断した大統領が、こんな表情をしていたことが僕にとっては非常にショッキングだった。せっかくの機会だったので、その映像のことをダニエルさんに聞いてみたが、「よく知らない」と言われた。

 ただ、ダニエルさんは、祖父は原爆を使用したことについては誇りとは思っていなかったと言っていた。彼は朝鮮戦争の際に、マッカーサーが核使用を提案したことを祖父が止めたことに言及していた。日本の被爆者たちとの交流は実に意義深いものだったことがわかった。

クリフトン・トルーマン・ダニエルさんとクリフトン・トルーマン・ダニエルさん(右)と筆者

 インタビュー後、オヘア空港からNYラガーディア空港まで3人で移動。NYのセントラルパークに面したホテルにチェックインしたら時刻は19時を過ぎていた。NYも誰もマスクをしていないな。

 ホテルのレセプションに何とテレ東NYで働くMがやって来てくれた。懐かしい! 彼女は一時期、TBSワシントン支局で働いていたことがある。その後、テレ東ワシントン支局のカメラマンに転出し、日本でも働いていたことがある。もう20年も前にワシントンDCで出会った人々は、歳月の流れのなかでそれぞれの道のりを歩んでいる。NY支局のHらと懇談。あしたの早朝からインタビューが2件。

旧統一教会アメリカ元幹部に聞く

7月29日(金) NYのホテルの部屋で午前7時からカメラのセッティング。8時半には旧統一教会アメリカ元幹部のアレン・ウッド氏がやってきた。元信者の友人をともなってきた。統一教会=Unification Churchの布教活動はかつてアメリカで大問題になったことがあり、教祖の文鮮明氏はアメリカで脱税罪により実刑判決を受け服役した経緯がある。米議会下院でも通称フレイザー委員会で公聴会が開かれ、その反社会性が審議された。ウッド氏は公聴会で統一教会の内幕について詳細に証言した。

 ウッド氏は日本も訪れており、当時の統一教会日本のトップ久保木修己氏や教会を支援していた笹川良一氏らとも接触している。ウッド氏のインタビューは

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