低廉で安全な住宅に移れるための支援充実こそ喫緊の課題
2022年08月25日
韓国のソウル市で8月8日から9日にかけて、記録的な豪雨により大規模な水害が発生した。9日、韓国政府は水害により8人が死亡し、6人が行方不明になっていると発表した。
ソウル市南部の冠岳区新林洞では、低所得者が暮らす半地下住宅で浸水被害が起こり、40代の姉妹と13歳の少女の家族3人が亡くなるという惨事が起こった。水圧でドアが開けられず、避難できなかったとみられている。隣接する銅雀区でも、半地下住宅で暮らす50歳代の女性が避難できずに命を落とした。
半地下住宅は1970年代、朝鮮半島有事に備えて各地で建造された住宅の地下室に由来するとされるが、大都市部への人口集中に伴い、低所得者層の住まいとして使用されるようになった。過去にも浸水被害が頻発したため、1998年にソウル市は半地下住宅の新築を禁止したが、韓国統計庁によると2020年時点でも半地下住宅を含む全国の地下住宅に暮らす世帯数は約33万世帯に上るという。
2020年に米アカデミー賞の作品賞など4冠に輝いた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)では、半地下住宅が物語の舞台として取り上げられ、世界的にも格差社会の象徴として注目を集めていた。映画の中でも、豪雨により主人公の一家が暮らす半地下の住居が浸水し、命からがら避難するシーンが描かれている。
韓国紙「中央日報」のコラムニスト、ヤン・ソンヒ氏は「韓国語の『半地下』を意味する『banjiha』は韓国的な住宅不平等の象徴であり社会的弱者であるほど災害に弱く、経済的不平等が生存の不平等につながることがあるということを見せる社会的メタファーになった」と指摘した(注1)
尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は9日、家族3人が亡くなった現場を視察し、その様子をインスタグラムに投稿。被災者を支援するとともに住宅の安全対策を早急におこなうと発信した。
ソウル市は10日、今後10~20年の間に、半地下住宅での居住を無くしていく方針を発表したが、安全性や居住の快適性よりも家賃の安さを優先して半地下住宅に暮らさざるをえない低所得者の住宅事情を踏まえた有効な支援策が実施されるのかどうか、疑問の声が出ている。
貧困や福祉の問題に取り組んできた韓国の市民団体、労働組合、障害者団体など169の団体は、8月16日、ソウルで記者会見を開き、「不平等が災害だ」をスローガンに1週間の追悼キャンペーンを始めると宣言した。キャンペーンでは、公営住宅の拡充など居住権の確立と気候変動対策の強化が目標に掲げられている。
災害の発生時に、安全性の低い住宅に暮らす低所得者や社会的に差別されてきた人たちがより大きな打撃を受けることは、日本でもよく知られている。
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