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岸田首相の理由説明なき「統一教会との訣別」は、更なる大混乱を招く

安倍元首相と教団との関係をあらためて解明せよ

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

岸田首相の二つの「決断と実行」

 「聞く力」を強調し、「検討」に終始してきた岸田文雄首相は、安倍元首相殺害事後間もなく、自ら、二つの「決断と実行」を行った。

 一つは、「国葬儀」を閣議決定したこと、そしてもう一つは、統一教会問題での閣僚や自民党への批判の高まりを受けて、9月と予想されていた内閣改造を急遽前倒しして、新内閣を発足させたことだ。

 しかし、この二つは、いずれも最悪で、それによって、岸田内閣は、重大な危機に瀕することになりかねないと、8月20日の拙稿【岸田首相は「反日カルト」と決別し、統一教会への日本からの資金の流れを解明せよ】で指摘した。

 ちょうどその時、岸田首相は、8月16日から22日まで家族とともに休暇中だった。その後、コロナ感染もあり、内閣改造後初めて記者との対面で行った会見が、8月31日の首相官邸での記者会見だった。

自民党の方針として旧統一教会と「関係を断つよう徹底する」と記者会見で述べた岸田文雄首相=2022年8月31日午後、首相官邸 拡大自民党の方針として旧統一教会と「関係を断つよう徹底する」と記者会見で述べた岸田文雄首相=2022年8月31日午後、首相官邸

 ここで、岸田首相は、統一教会をめぐる問題については、閣僚などを含め、自民党議員が懸念や疑念を持たれていることを陳謝し、「党として説明責任を果たし、国民の信頼を回復できるよう厳正な対応をとっていく」と述べた上、以下の三つを指示したと述べた。

 第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に、当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。

 第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を断つこと。これを党の基本方針として関係を断つよう、所属国会議員に徹底すること。

 第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること。

 これを受け、自民党は、党所属の国会議員にこれまでの旧統一教会側との関係を報告させ、結果を公表することに加え、今後、関連団体を含め、旧統一教会側と一切関係を持たないとする方針を決定した。

 国葬については、これまでと同様の開催理由を述べたうえ、

「今回の『国葬儀』の開催は、国民に弔意を強制するものではないが、さまざまな意見とともに、説明が不十分との批判をいただいている。そうした意見、批判を真摯に受け止め、正面から答える責任がある。政権の初心に返って、丁寧な説明に全力を尽くしていく」

 と述べた。

 二つの「決断と実行」によって生じた危機は、この首相会見で一層拡大させ、事態は収拾困難な方向に向かっている。

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筆者

郷原信郎

郷原信郎(ごうはら・のぶお) 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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