安倍元首相と教団との関係をあらためて解明せよ
2022年09月04日
「聞く力」を強調し、「検討」に終始してきた岸田文雄首相は、安倍元首相殺害事後間もなく、自ら、二つの「決断と実行」を行った。
一つは、「国葬儀」を閣議決定したこと、そしてもう一つは、統一教会問題での閣僚や自民党への批判の高まりを受けて、9月と予想されていた内閣改造を急遽前倒しして、新内閣を発足させたことだ。
しかし、この二つは、いずれも最悪で、それによって、岸田内閣は、重大な危機に瀕することになりかねないと、8月20日の拙稿【岸田首相は「反日カルト」と決別し、統一教会への日本からの資金の流れを解明せよ】で指摘した。
ちょうどその時、岸田首相は、8月16日から22日まで家族とともに休暇中だった。その後、コロナ感染もあり、内閣改造後初めて記者との対面で行った会見が、8月31日の首相官邸での記者会見だった。
ここで、岸田首相は、統一教会をめぐる問題については、閣僚などを含め、自民党議員が懸念や疑念を持たれていることを陳謝し、「党として説明責任を果たし、国民の信頼を回復できるよう厳正な対応をとっていく」と述べた上、以下の三つを指示したと述べた。
第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に、当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。
第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を断つこと。これを党の基本方針として関係を断つよう、所属国会議員に徹底すること。
第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること。
これを受け、自民党は、党所属の国会議員にこれまでの旧統一教会側との関係を報告させ、結果を公表することに加え、今後、関連団体を含め、旧統一教会側と一切関係を持たないとする方針を決定した。
国葬については、これまでと同様の開催理由を述べたうえ、
「今回の『国葬儀』の開催は、国民に弔意を強制するものではないが、さまざまな意見とともに、説明が不十分との批判をいただいている。そうした意見、批判を真摯に受け止め、正面から答える責任がある。政権の初心に返って、丁寧な説明に全力を尽くしていく」
と述べた。
二つの「決断と実行」によって生じた危機は、この首相会見で一層拡大させ、事態は収拾困難な方向に向かっている。
まず、国葬については、殺害事件直後に、岸田首相自身が拙速に「国葬儀」を実施する方針を打ち出した時点で、社会の「分断」「二極化」が拡大し、不測の事態の重大なリスクに備えて膨大なコストがかかることを指摘していた(【安倍元首相「国葬儀」が抱える重大リスクに、岸田首相は堪え得るか】)。
予測していたとおり、世論調査では、国葬に反対する意見が多数に上る一方、岸田首相が当初から強調していた海外からの多数の弔意にもかかわらず、各国からの現職のトップの参列はほとんどなく、「弔問外交」が期待できるような状況ではない。国民に対して「弔意」を求めないとすると、明確な法的根拠もなく、閣議決定だけで「国主催の葬儀」を行う意味は一層希薄になる。岸田首相は「丁寧な説明に全力を尽くす」と言うが、そもそも説明できる内容がほとんどない。
「統一教会問題」については、内閣改造の時点で、何がどう問題なのかを全く示さないまま「厳正に見直す」として、個人の対応に委ねていたことに根本的な問題があった。今回の会見では、「所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を断つ」と述べ、その後、茂木敏充幹事長が自民党としての「統一教会との訣別宣言」を行った。しかし、肝心の「統一教会の何がどう問題だから訣別するのか」という点は、岸田首相も、茂木幹事長も何も述べていない。
旧統一教会は、今も、宗教法人として国に認証され、法人格が認められ、税制上の優遇措置も認められている。自民党がそのような法人と「関係を断つ」というのであれば、それはいかなる理由によるのかを明確に示す必要がある。ところが、岸田首相は、それについて何も述べていない。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください