「不起訴」の説明責任を果たさない検察と、追及力が劣化した取材現場
熊本日日新聞「不起訴の陰影」企画キャップ・植木泰士記者との対話を通じて②
高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト
「検察は不起訴の理由を明らかにしていない」という記事が急増している。
全国紙や主要地方紙、通信社の該当記事を筆者が大雑把に把握したところ、10年ほど前までは1年間に数本程度だったにもかかわらず、2019年以降は2000件を超えるほどになった。その傾向は前回記した通りだが、「不起訴理由が不明記事」の増加は、いったい何を物語っているのか。
2回目の今回は、熊本日日新聞社地域報道本部で司法キャップを務める植木泰士記者との対話を紹介しながら、この問題に迫りたい。
「回答を差し控える」検察の対応に疑問符
熊本日日新聞は今年6月、「くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影」と題する連載記事を紙面に掲載した。全7回の連載では、次のような見出しが並んだ。
「検察官裁量で見送り7割 増える不起訴、埋もれる真相」
「拳銃7丁、実弾156発保管の組員「放免」 不起訴理由、地検「コメントできない」」
「逮捕妥当か、検証できず 容疑の少年、家裁不送致に」
「真相 埋もれる懸念も/検察 丁寧に説明を」
連載はwebでも無料公開されている。
連載1回目の「処分の理由、説明なく…検察による「事件」終結」の中で、取材班はこう記している。
投資詐欺の疑いで逮捕、送検された東京都内の自営業の男性(36)が今年3月、不起訴となった。熊本地検の広報担当者は、不起訴の理由を尋ねる取材に「回答を差し控える」とにべもなかった。
県警は、この男性と横浜市の会社員の男(51)が2020年12月、被害者の女性(39)が勤める県内の飲食店に客として来店し、女性にうその投資話を信じ込ませて現金1500万円をだまし取ったとして2人を逮捕した。約3週間の捜査を経て、地検は会社員の男のみを詐欺罪で起訴した。
2人の共謀を裁判で立証できる証拠が足りなかったのか。それとも、そもそも男性が犯行に関与していなかったのか-。地検からの説明はなかった。
日本国憲法は、国民監視の下で裁判の公正さを担保するため「裁判は公開の法廷で行う」とうたう。ただ、不起訴処分はその前段階で検察官が事件を終結させる手続きだ。
地検は、不起訴の具体的な理由を伏せる法的な根拠として、刑事訴訟法47条の「訴訟に関する書類は公判の開廷前に公にしてはならない」との条文を挙げる。しかし、47条には「公益上の必要があれば、その限りではない」との例外規定がある。不起訴の内容をどこまで公開するかの運用は、検察官の裁量に広く委ねられている。
(熊本日日新聞2022年6月5日)
また、この回の記事では、警察による容疑者の逮捕や捜査が適切だったのかについて、社会で検証可能な司法でなければならないとする熊本大学法学部・岡田行雄教授(刑事法)のコメントを引用。「自分たちに不利な情報を言いたがらないのが検察だが、国民にもっと説明する責任がある」との指摘も載せている。

熊本地方検察庁=熊本市中央区京町1丁目
連載の狙いは明確だ。
1つは、公開の裁判を経ずに事件を終結させる不起訴という検察の判断が事件全体の7割にも達する現状をどう考えるのかという問題提起である。検察が事件を終結させることは、すなわち、検察官が裁判官のような役割を果たしていると言えなくもない。公開の裁判ではないから、事件終結の理由も市民に開示されない。それは社会にとってマイナスではないかとの指摘だ。
もう1つは、不起訴の理由を公にしない検察に対する問題提起だ。記事中で岡田教授が指摘しているように、検察組織は(検察に限らないが)自らに不利な情報を進んで公にすることはない。不起訴のうち「嫌疑なし」は、容疑者とされた人物に犯罪の疑いがなかった、つまり無実を意味しており、警察の捜査に重大な問題があったこととほぼ同義だ。
検察が「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」の区分すら明かさないのであれば、説明責任を著しく欠いているとの批判は免れまい。
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