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まるで入管の「広報」だった。NHK「国際報道2022」の問題点

「国際報道」の名が泣くミスリードの多さ

児玉晃一 弁護士

 NHK-BS1で2022年8月31日午後11時45分から放送された「国際報道 2022」を見て驚きました。SPOT LIGHT〈不法滞在の長期化 日本の入管に密着〉と題する特集が、入管当局からの情報のみに依拠したような内容だったのです。放送後、私は個人として番組宛てに抗議文を送りました。他の人々や団体からも意見が寄せられたようで、NHKは9月12日の同番組で「8月31日の放送について様々なご指摘をいただきました。情報を追加してお伝えします」と〈在留資格のない外国人 現状と課題〉を放送。その中で、滞在者の人数など内容の一部について「誤解を与える伝え方をした」と謝罪しました。

 しかし、「国際報道」という番組名とはおよそかけ離れた8月31日の放送は、「誤解を与えた」という程度ではなく、より深刻な問題をはらんでいたと考えます。改めて、その問題点を指摘したいと思います。

誤った印象与えた「不法滞在」という言葉

 まず、特集のタイトルにあった「不法滞在」という用語についてです。

拡大NHK「国際報道 2022」のホームページで紹介されている8月31日の放送内容

 番組中、この用語は何度も無批判で繰り返し、使われていました。ですが、これは、国連では常に移民に罪があるような印象を与えるため差別的なので使わないことになって久しい言葉です。

 法務省政策評価懇談会の篠塚力座長もこの点を指摘しています(注1)。米国バイデン政権も2021年4月に、移民・関税執行局と税関・国境警備局にこれまで使用されてきた「alien」(在留外国人)や「illegal alien」(不法在留外国人)といった呼称を禁じ、代わりに「noncitizen」(市民権を持たない人)や「migrant」(移民)、「undocumented」(必要な書類を持たない)という言葉を使う方針を示しました(注2)。

 2021年12月21日に出入国在留管理庁が公表した「現行入管法上の問題点」1ページでは、「我が国に入国・在留する全ての外国人 が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見を無くし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社 会の実現を目指す」とされています(注3)。差別・偏見をなくすためには、国連あるいは米国の例にならい、出入国在留管理庁が率先して、差別・偏見を助長するような「不法滞在者」「不法入国者」などの用語を用いず、「非正規滞在」と呼ぶべきです。

 今回の報道は、そのような問題意識を全く持つことなく、出入国在留管理庁の用いる「不法滞在」という用語を無批判に用いています。これでは「国際報道」の番組タイトル名が泣きます。

注1)2022年2月28日法務省政策評価懇談会(第66回)会議資料会議
資料1-2 5ページhttps://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho05_00034.html

注2)
https://courrier.jp/news/archives/242206/

注3)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001361884.pdf


筆者

児玉晃一

児玉晃一(こだま・こういち) 弁護士

1966年生まれ。早稲田大学卒業。1994年弁護士登録。2009年からマイルストーン総合法律事務所(渋谷区代々木上原所在)代表弁護士。1995年から入管収容問題、難民問題に取り組む。移民政策学会元共同代表、元事務局長。2014年からは”全件収容主義と闘う弁護士の会 「ハマースミスの誓い」”代表。2021年春の通常国会衆議院法務委員会では改定入管法に反対の立場で参考人として意見を述べた。著書・論文に『難民判例集』(2004年 現代人文社)、『「全件収容主義」は誤りである』(2009年 『移民政策研究』創刊号)、「恣意的拘禁と入管収容」(法学セミナー 2020年2月号 2020 日本評論社)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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