2022年09月22日
何から何まで間が悪いのだ。
事件が7月8日。岸田首相が記者会見で「国葬」を表明したのが6日後の同月14日。閣議決定は同22日。ここまでは事件の余波で世間が国葬の是非をうまく咀嚼できる前の、自民党副総裁麻生太郎の「理屈じゃねえんだよ」のプッシュが象徴する急ぎよう。しかしそこから実施までは2カ月以上の間が空いた。
記者発表直後にNHKが実施した世論調査では「国葬」方針に賛成(評価する)が49%で、反対(評価しない)は38%。山上徹也容疑者の旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への深い私怨が報じられ、元首相との関連も取り沙汰され始めてはいたが、事件はなおも悲劇として追悼気運はまだあった。
死去から10日後の英国エリザベス女王の国葬のように、あるいは死後11日で行われた1962年の吉田茂元首相の国葬のように、ほぼ間髪おかずにやれていればどうだったか?
事件から2カ月が過ぎた9月に入ってからの各社の世論調査では、国葬に対し、朝日は賛成38%ー反対56%▼毎日は同27%ー62%▼時事は同25.3%ー51.9%▼共同は同38.5%ー60.8%▼日経は評価する37%ー評価しない60%▼NHKは同32%ー57%、と反対意見が軒並みダブルスコアほどに凌駕した。何とも間が悪い。
反対はまずは今回の「国葬」儀の法的根拠のなさへの申し立てだった。同じく法的支えに欠けた吉田国葬は、日本の「戦後」独立回復の立役者として、戦前の「国葬」を知る旧世代のいた、まだ「戦後」22年目に行われた。それでも当時の首相の佐藤栄作は、共同通信によると「法的根拠のない国葬を超法規的措置で実施するには、野党の了解が必要だから、野党第1党の社会党を説得しろ」(東京新聞2022年9月5日朝刊)と外遊先から自民党幹部に電話し、共産党以外の野党が反対しないことを確認した上で、死後3日で国葬を閣議決定した。
対して今回は、野党にも国会にも何も諮らない「理屈じゃねえ」決定だった。そしてそれを自民党元幹事長の二階俊博が「黙って手を合わせて見送ってあげたらいい。こんなときに議論すべきじゃない」「終わったら、反対していた人たちも必ずよかったと思うはず。日本人ならね」と“援護”して反対論の火に油を注いだ。
どうにもこうにも間が悪い。立憲主義と議会民主主義の我が国にあって、反対論は「日本人なら」とか「黙って」とか言って済むような低次元の話ではない。しかし、右派の“論客”として顔出ししている評論家の櫻井よしこやフジテレビ上席解説委員の平井文夫などはもはや国葬反対論を論駁することができないせいか、二階同様、ほぼ感情的に「国葬」儀の敢行を乞い願うばかりだ。
曰く「(費用に関して)お金を軸に議論をする(略)このような卑しい議論をしてほしくない」「安倍総理ほど国葬儀にふさわしい総理はいない」「反対の人たちは大きい声で叫ぶ。それをメディアが取り上げ、なんとなくそっちに引っ張られていく。けれど表に出ないものすごい多くの人が、きちんとした国葬儀で安倍総理に感謝してお送りしたいと思っているに違いないと思いますよ」(櫻井=9月6日、BSフジ・プライムニュース)「安倍晋三さんのどこが国葬に値しない政治家なのか誰か教えてくれ」「国葬に来てもいいし来なくてもいい。でも邪魔するのはやめてくれ」「みなさん、どうかもう少し静かに安倍さんを送りませんか」(平井=FNNプライムオンライン)。
そして彼らがほとんど語らない、あるいは語っても話を逸らすのが旧統一教会問題だ。
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