どうすれば「優先席」を優先利用できるのか~罰則? 社会の目? それとも……
札幌の「専用席」が効果を上げた経験も踏まえて
土橋喜人 宇都宮大学客員教授・スーダン障害者教育支援の会副代表理事
「啓発」に人々は従うのか? 疑問符がつく取り組み
世の中では、優先席、優先トイレ、優先エレベータ、優先駐車場等、「優先」という言葉がついた様々な設備が整備されている。
海外では、罰則が定められ、罰金が科せられたりすることもある。ところが日本では、あくまでも厚意によって秩序が保たれることが前提となっており、罰則等が設けられているケースはない。その結果、多くの場合において優先利用対象者が利用できていない事態となっている。
国土交通省ではこのことを重く見て、2020 年度の4回の検討会(注1)を経て、2021年に施行されたバリアフリー法の改正などを通じ、バリアフリー施設の適正利用を徹底させることを国や自治体、事業者に義務付けた。しかし、その結果、どのようなことが行われたかというと、ポスターや音声案内などの「広報」や「啓発」である(注2)。これで世の中の人々が従うかというと、疑問符が付く。
急ブレーキがかかったバス~もし立っていたら?

JR山手線の車両に貼られた携帯電話オフの新基準を記したシール=2015年9月30日、東京都品川区
私自身、障害を持った当事者であり、下肢三級で左下肢の三関節に障害がある。赤いヘルプマークを下げて、通常は1本の大きめの杖(ロフストランド杖と呼ばれる松葉杖のような杖)、場合によっては2本の大きめの杖を突いて、外出するが、席を譲られることはそれほどない。優先席付近にいてもそれは同様である。(無論、譲ってくださる心優しい方もいらっしゃることも事実である。)
以前、地方都市でバスに乗った際に、優先席も含めて全席が埋まっていたが、誰も譲ってくれる気配がなかったので仕方なくバスの手すりにしがみついて立っていた。やがて優先席に座っていた乗客が下りたのでそこに座った後、しばらくしてからバスが急ブレーキをかけた。
バスの運転手はようやく口を開いてマイクで「お客様、大丈夫でしょうか? お怪我等はございませんか?」と。私は「ご配慮ありがとうございます。今は座っているからいいのですが、さっきは座れなかったのでその状態ならば危なかったです」と答えた。するとバスの運転手は「優先席をお使いください」との回答。それに対して「優先席が空いていなかったんです。そのようにマイクでお話ができるならば、先ほど、私が座れないような場合にも配慮していただいて、他のお客様の誘導をしていただけると助かるのですが……」と食い下がる私。対話はそこで終わった。
一方、京都のバスでは優先席が空いている状態だというネット記事を読んだ(注3)。京都だけではない。個人的な見解だが、実は東京のバスもよくよく見ると優先席に座っている非優先利用対象者はあまり見かけない気がする。バスの場合は、上述のケースのような急ブレーキの危険性やそもそも2席~5席ほどしかないということも関係している可能性はある。
ただ、残念ながら、これらを立証した研究はまだ存在していない。公共交通のバスは事業者数が2,296業者、台数は60,402台あり、その測定は非常に困難であることは想像に難くない。
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