本当の障害者雇用の姿とは~大学の場合
2022年10月12日
脳塞栓(そくせん)症の後遺症で障害を抱えつつ、人類学研究にとりくむ三谷雅純さんの連載「〈障害者〉と創る未来の景色」の3回目です。「様々な社会課題に直面している当事者や、課題解決にとりくんでいる人たちの論をご紹介したい」と呼びかけたところ、三谷さんが名乗り出てくださいました。
三谷さんの連載の感想や自分の体験を伝えたい、私も当事者として論じたいという方がいらっしゃいましたら、メールでinfo-ronza@asahi.comまでその感想や体験、論考をお送りいただければ幸いです。一部だけになりますが、論座でご紹介したいと思います。(論座編集部)
前回の「なぜ障害のある教員は少ないのか?~研修に携わった経験から」で報告したように、障害のある子どもにどう接するべきかという研修を、教員は熱心に聞いてくれました。しかし、その一方で教員仲間に障害者は増えないという事実があります。これは教員という職業が持つ「優越的な立場の暗黙の誇示」、つまりパターナリズム(父権主義)が関係しているような気がするのです。
一部の国立大学と公立大学の障害者雇用は厚生労働省が各都道府県に置いている労働局が公開している「障害者雇用状況の集計結果」(最近の例を挙げれば、東京労働局、大阪労働局、兵庫労働局。各資料の最終ページ参照)に載っています。また国立大学法人やその他の国立機関の集計は厚生労働省が公表している「障害者雇用状況の集計結果」(2021年の集計結果。31~34ページ参照)に載っています。
このように障害者雇用率は公開されていますが、各大学の事務職員と教育職員の割合まではわかりません。これはひじょうに残念なことです。なぜなら人を育てる立場の大学教員こそ、障害者が活躍できる職種でなければならないからです。日常的に学生と接する教員は、障害のある学生のロール・モデルになりうるのです。高校までのような事務職員と教育職員の割合にかたよりがあったのでは、大学でも障害教員は本領を発揮できません。
なぜ障害者雇用には、このように極端な偏りがあるのでしょうか。前回わたしは、教育機関には障害者雇用にかんして「除外率制度」が生きており、教職員はその「除外率制度」の適用を受けていると指摘しました。法律上は将来的に廃止すると言いながらも、現在はまだ「障害者を一定の割合で雇用しなくてもよい」という制度が残されています。つまり障害者雇用に関して「ゲタを履かせてもらっている」わけです。教育機関の除外率は、例えば大学などでは30 %です。特殊支援学校は45 %、小学校で55 %、幼稚園は60 %でした。幼稚園や小学校、特別支援学校、大学の教員は、それだけ障害者が就労しにくい職種になっています。
ここまで書いてみて、やはり、わたしは不思議でなりません。なぜ教育現場にはパターナリズム(父権主義)が根強く残っているのでしょうか。
「子どもに対して、あるいは若者に対して強い立場にいる教員が、弱い立場にいる子どもや若者を保護する」というのがパターナリズムです。少し聞いただけでは当たり前だという気がしてしまいます。一方は今から成長していく子どもであったり精神的に未熟な若者です。一方はそれなりに人生経験を積んだ教員です。保護するのが当然かもしれないという思いは自然な感覚でしょう。しかし、それでもなぜ教育現場にパターナリズムが存在するのかには疑問が残ります。
ヒューライツ大阪という組織が発行している「国際人権ひろば」という雑誌があります。主要な記事はウェブでも配信されています。その2021年11月号に、上智大学で文化心理学を教える出口真紀子さんが「マジョリティ側が陥りやすい『多様性』の罠」という文章を発表しています。
出口さんは「マイノリティへの差別が人権侵害の問題であるとか、マイノリティが経験する差別は制度・構造・歴史に基づいたものであるといった視点が限りなく少ない」と書いています。また「差別の問題を『情緒』や『気持ち』の問題として捉えることしかできない薄っぺらな想像力は、日本社会全体の問題であろう」ともお書きです。これだけでは何もことかよく分からない方が多いと思います。出口さんの文章に沿って解説を試みます。
まず心理学では「差別」という行為を三種類に分けるのだそうです。
一つは「直接的差別」です。これは一番分かりやすい差別です。例えば人種や民族、宗教や性的指向といった人の属性で、その人を脅迫したり、暴力を振るったりすることです。ヘイト・クライムとか憎悪犯罪と呼ばれているものが典型です。この直接的差別は子どもにも分かりやすく、教育現場でも「してはいけない悪いこと」として教えています。ですから、日本で教育を受けた多くの人は、差別を直接的差別と同一視しています。
二つ目は「制度的差別」
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