西郷南海子(さいごうみなこ) 教育学者
1987年生まれ。日本学術振興会特別研究員(PD)。神奈川県鎌倉市育ち、京都市在住。京都大学に通いながら3人の子どもを出産し、博士号(教育学)を取得。現在、地元の公立小学校のPTA会長4期目。単著に『デューイと「生活としての芸術」―戦間期アメリカの教育哲学と実践』(京都大学学術出版会)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「常時接続」時代、コロナ時代に進んだ新たな「つながる」様式
この光景は、現在子育てをしている人しか知らないものである。
何かというと、子どもたちが、友達とオンラインゲームをしながら、YouTubeを見つつ、さらにはLINEでの通話を同時進行で行うという「同時接続状態」で生活しているのである。スマホやタブレット、パソコンなどの情報端末を複数台持ち、さらにWi-Fiがあるという家庭環境の子どもたちがこれに該当する。
わたしたち大人の既成概念からすると、LINEは何らかの用事を済ませるための連絡ツールであるが、子どもたちは通信制限のないWi-Fi環境では通話を接続したままである。つまり用途が根本的に異なるのである。手を離した状態で通話する「スピーカーフォン」では、周囲の生活音も拾うため、「今夜はカレーだよ」といったお互いの家庭の様子がダダ漏れである。
また、勉強をする際にも、LINE通話をつなげっぱなしにして、さらにYouTubeの動画も流し、ノートに向かう。ここでは、①勉強内容 ②通話内容 ③動画内容の三つが同時進行していることになる。子どもたちは、これらの情報をどのように整理し、取り込んでいるのだろうか。頭が混乱してしまうのではないか。
筆者は、「インターネットは子どもの豊かな経験を奪う」といった安易なインターネット批判には与しない立場であるが、このような同時接続状態は筆者の世代には存在しなかったため、奇異に見える。筆者が子どものころは、電話は電話代を気にして早めに切り、テレビは新聞でテレビ欄を確認してから見るという生活だった。それがたったの20年で、端末とコンテンツの双方で劇的な変化を遂げているのである。
本稿で見ていくような常時接続の場合、アンケートでよく聞かれるような「1日何時間視聴しますか」といった問いに答えることはできない。筆者も子どもの学校からアンケートが来るたび、悩んでしまう。ちなみに「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報)令和2年3月 内閣府」によれば、高校生の31.5%が1日に5時間以上インターネットを利用している(下グラフ)。
今回考えてみたいのは、インターネット(厳密にいうならWi-Fi)の登場によって、子どもたちの認識様式がどのように変化しているのかということである。上記の変化は、端末機器が安くなったことと、Wi-Fiが家庭に常備されたことの2つの条件が合わさったことによる。
iPhoneは相変わらず高価だが、親のお古をもらうか、メルカリなどで中古品を探し、格安SIMを差し込めば、そう高くなく利用できる。保護者としても、行動範囲が広がる中学生ごろには持たせることが多いのではないか。また、家庭内のインターネット接続も、すでにWi-Fiが圧倒的多数を占めている(筆者調べ1)。
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