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【66】「いのちのとりで裁判」勝訴が暴いた国の欺瞞

社会保障の最後の砦・生活保護の基準はフェイクによって引き下げられた

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

 いよいよ、国を土俵際まで追い詰めた。そう思える判決だった。

 第2次安倍政権が2013年から2015年にかけて実施した生活保護の生活扶助基準(生活費に相当する費用)の引き下げに対して、全国29都道府県で減額処分の取消し等を求める民事訴訟が継続されている。

 生活保護の基準は生活保護利用者に支給される保護費の算定基準となっているだけでなく、国が国民に保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の水準(ナショナルミニマム)を示すラインとして、就学援助など他の低所得者支援制度の要件を定める際にも参照されている。いわば、社会保障の「最後の砦」としての役割を持つことから、この裁判は「いのちのとりで裁判」と呼ばれている。

裁量権逸脱・乱用を認定した横浜地裁

 10月19日、神奈川県内の生活保護利用者48人(提訴時)が引き下げの違法性・違憲性を訴えた民事訴訟において、横浜地裁は原告勝訴の判決を言い渡した。岡田伸太裁判長は「厚生労働大臣が裁量権の範囲を逸脱し、乱用した」と認定。憲法判断には踏み込まなかったものの、減額処分は生活保護法に違反するとして処分を取り消した。

 原告勝訴の判決が出たのは、昨年の大阪地裁、今年の熊本地裁、東京地裁に続き、4例目である。9地裁では原告が敗訴しているものの、行政相手の裁判で「大臣による決定が違法だった」との判決が相次ぐのは極めて異例のことだ。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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