2022年10月25日
テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」の玉川徹コメンテーターが、安倍元首相の国葬で菅前首相が述べた弔辞には「(演出に)電通が入っていた」と発言した「事件」の波紋が広がっている。
9月28日の発言翌日、玉川氏が番組で事実誤認と謝罪した後もネットやテレビ、自民党政治家らが玉川氏の番組降板を要求するバッシングが続いた。
玉川氏は10日間の出勤停止処分を受けたあと、10月19日に同番組に出演し、電通と菅前首相に対して改めて謝罪した。そして、事実確認の取材の基本にもう一度立ち返る、自分に慢心や驕りがあった等と反省を語り、深々と頭を下げた。
電通の関与があったとする玉川発言に事実誤認があったとしても、いやしくもジャーナリズムの現場に身を置くベテランが全く根も葉もないことを口走るものだろうか。玉川氏の発言が問題になったとき、私はまずそれを考えた。事実確認を怠ったのはプロとして弁解の余地はないが、まだ語っていないことがあるのではないか。このままでは玉川氏はピエロになってしまうのではないか。
この謝罪劇にSNSは大きく反応し、TBS系の番組「THE TIME,」(10月20日放映)「ニュース&トレンド バズったワード デイリーランキング」コーナーで玉川氏が1位にトレンド入りしたという(「スポーツ報知」10月20日電子版)。
さらに謝罪の翌日の番組に出演した玉川氏に対して、ネットには反発と復帰歓迎の意見が交錯したようだ。
玉川氏に関してはテレビ朝日内部で開かれた「放送番組審議会」(10月16日)で、幻冬舎社長の見城徹氏ら外部委員9人で議論になったと「文春オンライン」が伝えている。「事実誤認した玉川氏は記者の基本動作ができていない」「もう画面には出ないほうがいい」「徹底した取材をしてニュースのVTRを作る裏方に回れ」等の意見が出たという。審議会の場にはテレビ朝日会長の早河洋氏らの幹部が出席し、局側からも玉川氏に対する厳しい意見が出されたという(「文春オンライン」10月15日)。
玉川氏の謝罪内容やスタジオでのコメンテーターを辞めて取材者として番組に残るとされた身の処し方は、番組審議会で出された意見と一致している。
テレビ朝日は今年6月の広告収入の急失速で予算割れが伝えられるなど経営悪化が指摘されている(「週刊現代」6月25日号)。こうした経営難の中で“視聴率男”の玉川氏を番組から切ることができない事情がテレビ朝日側にはあるのだろう。その上での身の処し方と思われる。
長年、ジャーナリズムで仕事をした記者には多かれ少なかれ「誤報」の経験があるだろう。いくら裏取りや事実関係の取材を進めていても、思わぬ落とし穴が潜んでいて誤報をしてしまう。事実関係の詰めが甘かった、思い込みがあった等の反省点は後から生まれる。
では誤報した記者はどうすればいいか。すぐに訂正、謝罪するのが鉄則で、その勇気を持つことが大切だ。
誤報は発見しだいすぐに訂正、謝罪する。これは自由な民主主義先進国のジャーナリストに共有のモラルでもある。「ニューヨーク・タイムズ」は100年前の誤報を発見しても、淡々として訂正記事を出すと聞いたことがある。
玉川氏はテレビ朝日局員として取材生活30年のベテランというが、これまで誤報した経験はなかったのだろうか。あるいは前首相や国葬、電通が絡む誤報だから、問題がより大きくなったのか。
いずれにせよ玉川氏は誤報発言の翌日には番組で訂正、謝罪したのだから、誤報のリスク管理は果たしている。
しかし謝罪したにもかかわらず、玉川氏に対するネットや一部テレビ局のコメンテーターたちによる玉川バッシングは止まらなかった。訂正、謝罪しても許せない、謝罪だけで済むと思うのか、そういう感情的レベルのバッシングに発展した。
ここには菅前首相の弔辞内容は素晴らしかったと賛美する一群の人々の激しい反発があったと推測される。
菅氏が弔辞で引用した明治時代の首相・山懸有朋は戦前の軍国主義者として著名な人物だったが、国葬参加者の間からは拍手が起こり、感動的な内容だったとの報道があった。NHKの夜9時のニュースでも東大名誉教授の御厨貴氏が菅氏の弔辞を褒めていた。
しかし実はこの山懸の歌をめぐるエピソードには、安倍元首相が盟友のJR東海名誉会長・葛西敬之氏の死を悼んで自身のフェイスブックに投稿していた“使い回し”説が出されている(ニュースサイト「リテラ」10月1日)。
恐らく玉川氏をバッシングする側には、
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