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ひろゆき氏が沖縄を笑えるのはなぜか~多数派の特権と暴力

阿部岳 沖縄タイムス編集委員

 「悔しくて、1週間ろくに眠れない」と、70代の女性は言った。50代の男性はこの話題になった途端、みるみる目に涙をためて何も言えなくなってしまった。ひろゆき(西村博之)氏の言動は、沖縄の人々の心の奥深いところを傷つけている。なぜなのか、考えている。

 始まりは10月3日のツイートだった。「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」。名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前。「新基地断念まで 座り込み抗議 不屈 3011日」という掲示板の横で、満面の笑みを浮かべてピースする写真を添えていた。この時は夕方で、現場に抗議の市民はいなかった。

西村博之(ひろゆき)氏のツイッターよりひろゆき(西村博之)氏のツイッターより

 インターネット掲示板「2チャンネル」創設者で、世論への影響力が強い「インフルエンサー」と称されるひろゆき氏。翌4日には再び辺野古を訪れ、座り込みを続けてきた市民に向かって、なぜか座り込みの定義を説教し始めた。「座り込みの意味をたぶん理解されていない」「書き方の間違いだと思うんです」。掲示板の表記が間違っていると主張する。

 24時間座り込んでいないと座り込みとは呼ばない、という勝手な解釈を編み出し、押し付けに来たようだ。根拠として辞書を挙げたが、こんな珍解釈を支えるような辞書はどこにもない。今は新基地建設の資材を運び込むトラックが1日3回、決まった時間にゲート前にやってくるので、市民はそれに合わせて座り込み、警察に排除されるまで抵抗している。これを座り込みと呼ばずに、何と呼ぶのだろうか。

 掲示板が示す「3011日」は、政府が普天間飛行場返還を名目に辺野古新基地の建設工事に着手した2014年7月を起点に、1日ずつ積み重ねられてきた。好きで座り込んでいる人はいない。この間、沖縄が選挙、要請行動、県民大会、県民投票、と民主主義の手法を尽くして反対の民意を伝えても政府が向き合わないから、やむにやまれず座り込んでいる。多くの人々が、時間もお金も暮らしも犠牲にしてきた。道半ばで亡くなった人も多い。それをゼロに戻せという言葉は、強い暴力性を帯びている。

米海兵隊キャンプ・シュワブの「ゲート前」で座り込む人たちと、立ち去るよう促す機動隊員ら=2022年9月29日、沖縄県名護市米海兵隊キャンプ・シュワブのゲート前で座り込む人たちと機動隊員ら=2022年9月29日、沖縄県名護市

多数派の暴力と、力の差を見せつけるかのような嘲笑

ひろゆき氏が揶揄した掲示板。座り込み抗議の日数が増えていく=沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前、撮影・筆者ひろゆき氏が揶揄した掲示板。座り込み抗議の日数が増えていく=沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前、撮影・筆者

 ひろゆき氏はMCを務めるインターネット番組「ABEMA Prime」のクルーを連れて辺野古を訪問していた。その番組から、10月7日の配信当日に出演依頼の電話が来た。「論破王」のホームグラウンドで、新聞記者が論戦して「勝利」できるはずがない。そもそも、取材対象者と論戦をしてもいいものだろうか。一瞬迷ったものの、ひろゆき氏に対する批判を可視化する役を引き受けることにした。

 沖縄に関わり、ひろゆき氏に批判的なスタンスで呼ばれたゲストは3人。芸人のせやろがいおじさんと私の冒頭発言を受け、ひろゆき氏は「事実でなく思いを伝えたい人が2人いるというのが思惑通りでおもしろい」とせせら笑った。ジャーナリストの宮原ジェフリーいちろうさんから勝手な思い込みを指摘されている間も、おかしそうに画面の向こうで笑っていた。

 私は「笑えるのは、ひろゆきさんが度量の広い人間だからではない。力関係で強い側にいる、笑える特権があるということだ」と言った。自分が多数派の側にいて、反発されても数の力で押し流せることを知っているからこそ、人は安心して対峙する相手を笑いのめすことができる。

 沖縄の人口は日本全体の1%。少数者ならば基本的な権利さえ奪える、そんな多数派の暴力と、力の差をあえて見せつけるかのような嘲笑が、沖縄の人々の尊厳を傷つけている。ひろゆき氏だけではない。当初のツイートには、合わせて33万以上の「いいね」と「リツイート」があった。圧倒的な数の多さが可視化されるのが、またしんどい。

デマとヘイトスピーチはジェノサイドに行き着く

 ひろゆき氏の言説は「冷笑系」と呼ばれてきた。私自身、当初は「ネトウヨ」とは違う種類の相手が現れたのか、と漠然と考えていた。私はネトウヨという言葉を、差別者で、卑怯で、情報分析ができない者たちを指して使っている。

 ひろゆき氏と関わり、発言を観察していると、

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