メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

【がんと向き合う④】「普通」ではないがん、治療の選択肢は少なく

抗がん剤「ドセタキセル」投与と副作用

隈元信一 ジャーナリスト

 がんで「余命3カ月から半年」の宣告を受けてから1年余り、闘病しながらジャーナリストとして活動を続ける隈元信一さんの体験記です。放射線照射で激しい痛みを抑えることができ、医師から「抗がん剤」治療を提案されて……。

私のがんは「ややこしい」

 「治療手段はありません」

 いったんはそう宣告された私だったが、放射線照射で痛みが緩和され、治療を受けることが可能な状態になった。

 前立腺がんの治療法には、大きく分けて三つの方法がある。

 ①手術療法

 ②放射線療法

 ③化学療法(抗がん剤などの薬物療法)

 ①と②は、主に体の一部分にとどまっているがんに対して有効とされる。

 「普通」の前立腺がんは「おとなしいがん」の代表選手と言われている。大きくなる速度がゆっくりとしていることが多く、早期には症状もないので、本人にも医師にも気づかれず、他の理由で亡くなった人を解剖したら見つかった、という例もある。

 ①や②の対象になる状態で見つかって根治できる人も多い。転移がなく、がんがまだ前立腺を包む膜の中だけにとどまっている場合、5年生存率(5年たっても生きていることができる割合)が100%という報告があるくらいだ。

 手術法の進歩も、めざましい。「ダビンチ・ロボット手術」という手術法をお聞きになった方も多いだろう。

 お腹にあけた小さな穴に、手術器具をとりつけたロボットアームと内視鏡を挿入し、医師が操作ボックスの中で内視鏡の画像を見ながら操作する手術法だ。

 私が入院した東邦大学病院は、このダビンチ・ロボット手術の成功例を重ねていることでも知られる。ところが残念ながら、私のがんは早期でもないし、おとなしい「普通」の前立腺がんでもなかった。だから、局所療法の①も②も使えない。放射線は、痛み緩和に限定して使えただけだった。

 残るは③しかないのか。私は医師の友人にも相談しながら、必死になって調べた。

 一つ、期待できそうな新薬が見つかった。ゾーフィゴという。「骨転移のある前立腺がんの治療薬として効果を発揮する放射性医薬品」と説明されている。強力な放射線を発するなどの不安要素はあるが、「骨転移のある」がんに効くという部分に私は惹かれた。自分のように全身の骨に転移がある病状でも、可能性があるのではないか。

 主治医に打診してみた。結果はあっさりと「適応外」だった。相談に乗ってくれた内科医の友人は冗談めかしながら、メールでこう慰めてくれた。

 「前立腺がんの多くは腺がんと言って、分泌腺の細胞ががん化したものなんだけど、貴兄のは、腺がんと神経内分泌がんとの混合がんというかなり変わったやつで、普通じゃない。だから、そもそも標準治療が頼りになりにくい。貴兄らしいと言えば、貴兄らしいのではないかな?」

 ややこしいがんにかかってしまった、ややこしい性格の患者と言いたいのだろう。慰めにもならないが、こちらの気持ちを思いやってくれる友情が嬉しかった。

 連載のこれまで
 ①病は不意打ちでやってきた 
 ②激痛に耐えながら受けた余命宣告 
 ③「がんばれ」は「がんを張り倒せ」だ

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

隈元信一

隈元信一(くまもと・しんいち) ジャーナリスト

1953年鹿児島県種子島生まれ。79年から朝日新聞記者。前橋・青森支局、東京本社学芸部、高麗大学(韓国)客員副教授などを経て、論説委員、編集委員。2015年青森県むつ支局長となり17年退社。日本を含むアジア文化・メディアを主なテーマに取材執筆してきた。取材班代表を務めた連載「原発とメディア」で13年科学ジャーナリスト大賞。著書に『永六輔』 (平凡社新書)、『探訪 ローカル番組の作り手たち』(はる書房)。共著に『原発とメディア2──3.11責任のありか』『歴史は生きている──東アジアの近現代がわかる10のテーマ』(以上、朝日新聞出版)、『放送十五講』(学文社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

隈元信一の記事

もっと見る