北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員
1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
節目の100年を前に進む追悼行事・イベント・映画製作
1923年9月1日に発生した関東大震災の直後、デマにあおられた自警団などにより、朝鮮人や中国人ら多くの人々が虐殺された。来年で100年の節目を迎えるのを前に、虐殺の史実を記憶し語り継ぐための追悼行事やイベント、映画製作などの準備が進む。一方で、虐殺された人数に異論を唱えたり、虐殺の史実への言及を避けようとしたりする動きも出てきている。「震災99年」の現状を報告する。
人権企画展で上映予定だった映像作品の上映が中止された。作品中に「関東大震災時の朝鮮人虐殺」への言及があったことに、東京都の人権施策を担当する部署が難色を示した。
企画展のタイトルは「あなたの本当の家を探しにいく」。東京都の委託を受けた外郭団体の都人権啓発センターが、美術家の飯山由貴さんに依頼し、都の指定管理施設である都人権プラザで8月末から11月末まで開催されている。
上映が中止された作品は《In-Mates》と題する26分の映像。戦前に都内の精神科病院に入院していた朝鮮人患者の診療録を読み解いた。在日コリアンや朝鮮人強制連行の歴史に詳しい外村大(とのむら・まさる)東京大教授のインタビューも収めている。
10月28日午後に記者会見した飯山さんによると、企画展の準備中だった5月中旬、都人権部の担当職員が作品を見て、疑問視するメールをセンターに送った。外村教授の発言場面をめぐって「関東大震災での朝鮮人大虐殺について、インタビュー内で『日本人が朝鮮人を殺したのは事実』と言っています。これに対して都ではこの歴史認識について言及をしていません」と指摘されていた。
さらにメールでは、毎年9月1日に開かれている朝鮮人犠牲者追悼式典に、小池百合子知事が追悼文を送っていないことを報じる朝日新聞記事が示され、「都知事がこうした立場をとっているにもかかわわらず、朝鮮人虐殺を『事実』と発言する動画を使用する事に懸念があります」と書かれていたという。
都職員のメールは人権啓発センター向けの内部のもので、飯山さんにあてたものではなかった。しかし受け取ったセンターの職員がメールの内容を問題視し、飯山さんに伝えてきたという。飯山さんは会見で「人権啓発センターの現場の方に職業倫理と正義があったので、私の立場でも事実を知ることができました」と経緯を述べた。
ところが5月下旬、人権啓発センターから飯山さんに「東京都と調整した結果、作品の上映は困難」との結論を示された際、朝鮮人虐殺をめぐる言及はなかった。代わりに理由として示されたのは、