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ロシアのスケート関係者が語る本国の現在と、ワリエワ薬物事件の行方

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 ロシアによるウクライナ軍事侵略の終結の兆しが見えない中、今シーズンのフィギュアスケートGP(グランプリ)シリーズはロシアとベラルーシの代表選手が不在のまま開幕した。

 ロシアスケート連盟は、GPシリーズと同じスケジュールでロシア国内シリーズを開催している。SNSやタス通信などを通して、ロシアの選手や関係者の動向はある程度伝わってくるものの、実際の現地の状況はどのようになっているのだろうか。

 筆者がGP大会取材中に行き当たったロシア出身、北米在住のあるスケート関係者Xさんは、匿名を条件に取材に応じた。本人の身の安全のため、性別、取材地も非公開とさせてもらう。

 Xさんはこう語った。

 「今のロシアは、プーチンのウクライナ侵略戦争に反対する人間にとって、とても危険な場所になりました。信じられないほどの量の、巧妙に作られたプロパガンダがテレビで流され、国中にあふれかえっているのです」

 プーチンに投票してきたロシア国民の自己責任、という意見もあるが、もちろん全ての国民がプーチンの侵略戦争を支持しているわけではない。だが反戦の声をあげただけで、明日の身の安全すらも保障されないのがロシアの現状なのだという。

モスクワ中心部の広場で開かれた抗議集会で、警察や内務省の治安部隊に拘束された男性=2022年2月24日、モスクワ拡大モスクワ中心部の広場で開かれた抗議集会で=2022年2月24日、モスクワ

 「ロシア国内では、政府のプロパガンダ以外の情報を拡散しようとした人物は、次々と投獄、あるいは殺害されているのです」

 スケート関係者の中でも侵攻開始当時、2014年ソチオリンピックペア王者のマキシム・トランコフや、2018年平昌オリンピック女子シングル銀メダリスト、エフゲニア・メドベデワなどのようにSNSを通して平和を訴えていた人々はいた。だがそれらの投稿は早いうちに削除され、彼らは現在沈黙を守ったままである。

エフゲニア・メドベデワなどのようにSNSを通して平和拡大一時、インスタグラムでロシアのウクライナ侵攻を批判していたエフゲニア・メドベデワ(ロシア)

筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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