戦前の朝鮮人患者などを取り上げた飯山由貴さんの映像作品
2022年11月19日
東京都の外郭団体・(公財)東京都人権啓発センターが美術家の飯山由貴さんに依頼した人権に関する企画展「あなたの本当の家を探しにいく」で、飯山さんが上映を希望した映像作品『In-Mates』を、都の人権部が上映不可とした問題は、朝日新聞が11月2日社説で取り上げるなど、大きな波紋を呼んでいる。
とりわけ、上映不可決定の直前(5月12日)に、都人権部から啓発センター側に送られたメールの内容に対し、批判が集まっている。そのメールには、『In-Mates』の中で出演者の歴史学者・外村大さん(東京大学教授)が「関東大震災時の朝鮮人虐殺事件が事実である」旨を発言していることについての「懸念」や、「在日朝鮮人は日本で生きづらいという面が強調されている」ことへの「懸念」が表明されていたからだ。このメールの内容は、東京都人権部の歴史認識や人権意識に対する強い疑念を生んだ。
これに対し、都人権部の川上秀一・人権担当理事は朝日新聞の取材(10月28日)などに対し「(メールの)表現が稚拙で工夫すべき所があった。都知事のことを出したのは必要のない表現だった」とも述べたものの、上映不可の理由は「企画展の趣旨に沿わなかった」だと述べ、小池都知事への忖度を否定している。小池百合子都知事も10月28日の記者会見で「今回は精神障害者の人権がテーマ。事業の趣旨に合わないということで、上映しない判断に至ったと聞いている」と説明した。
これらの発言からは、小池都知事への忖度はなかった、『In-Mates』が企画展の趣旨に沿っていなかったから上映不可にしただけのことだとして、この問題の幕引きを計りたい姿勢が見て取れる。
しかし実際の作品を見る限り、『In-Mates』が「企画展の趣旨に沿っていない」作品だとする都人権部の見解は、説得力を欠くといわざるを得ない。
『In-Mates』は、戦前の東京・王子脳病院に入院していた2人の朝鮮人男性の診療録を素材にした26分の作品。ラッパー/詩人で在日2・5世のFUNIさん、歴史学者の外村大さん(東京大学教授)などが出演している。飯山さんは都人権部と啓発センターに向けて作成した文書の中で、次のように『In-Mates』を解説している。
「1900年代前半に移住労働者として渡日して就労し、精神疾患とされる症状によって精神病院に入院、死没された二人の男性の診療録を専門家の協力を得ながら読み解き、現代日本に生きる在日2・5世のラッパーであり詩人の出演者によって、彼自身が体験したアイデンティティの揺れと二人の男性が遺した言葉を重ねることで、ご自身が彼ら二人の代弁者になることについての強い葛藤と覚悟を持って演じられた作品です」
ちなみに関東大震災時の朝鮮人虐殺事件は、この作品のメインテーマとして扱われているわけではない。しかし、1923年の同虐殺事件が、生き残った当時の在日朝鮮人にも大きな精神的ダメージを与え、精神を病む者を生み出したのではないか、と外村さんは考え、『In-Mates』の中でも短く言及している。
『In-Mates』は、既に啓発センターが企画し都人権部の承認を得ていた企画展「あなたの本当の家を探しにいく」(飯山さんが制作した3つの映像作品を上映)の「附帯事業」として、つまり4本目の上映作品として、今年4月に啓発センターから都人権部に上映が提案された。
しかし5月12日に先述の「懸念」を伝えるメールが都人権部から啓発センターに送られ、13日に上映不可が電話で伝えられる。しかし5月19日には、「企画展の趣旨から離れている」といった、懸念とは別の理由で、上映不可の文書が飯山さんにメールで送付された。
これに対し飯山さんは、同月23日に啓発センターに送った「返答」で次のように異議を表明した。
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