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賠償金を払わない「論破王」ひろゆき氏の法の抜け道を使ったトンデモな理屈

Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【8】

清義明 ルポライター

 前回「救済されない旧『2ちゃんねる』の中傷被害者とひろゆき氏の賠償金不払い Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【7】」に引き続き、「2ちゃんねる」とその管理者であった西村博之(ひろゆき)氏が抱える問題について書く。

★連載「 Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー」のこれまでの記事は「こらら」からお読みいただけます。

「ペット大好き掲示板」事件で示された画期的な判断

 今回、まず取り上げるのは「ペット大好き掲示板」事件の裁判である。この裁判では、「2ちゃんねる」と匿名掲示板を考えるうえで画期的な判断が示されている。

 同裁判は、2ちゃんねるの被害について、はじめて最高裁まで争ったケースで、もちろん西村氏の不作為を認められ、西村氏は敗訴している。この裁判はプロバイダ責任制限法が施行される以前の2001年に提訴されたものなので、プロバイダ責任制限法は適用されていない。しかし、仮に同法が適用されるなら………いうことが、この裁判の争点ともなっている。

 一審の東京地裁では、プロバイダ責任制限法はこの裁判には適用されないと断りながら、その法の趣旨は十分に尊重されるべきとした。しかし、仮にプロバイダ責任制限法があったとしても、西村氏側がこの被害の申し立てを知っており、それを削除することも一存でできたにも関わらず、なにもしなかったわけであり、責任は西村氏にあるとした。地裁のこの判断は、二審の高裁でもそのまま変わることなく、最高裁では控訴を棄却されている(本稿末尾の注1参照)。

 プロバイダ責任制限法が施行されてからの数多くの裁判を、本人が忘れてしまっているのか、それとも誰も覚えていないとタカをくくっているのかは知らない。どちらにしても呆れるばかりである。

 さらに滑稽なのは、ネットにおける誹謗中傷の法的議論では、必ずといっても出てくるこの有名な判例を、当のご本人がまったく覚えていないということだ。これが「論破王」の正体である。

 また、この判決では2ちゃんねるの削除ルールがきわめて不明確であって、「違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められない」として、管理者である西村氏が「管理者としてその責任を負担するのは当然」ともしている。プロバイダ責任制限法施行直前のこの判決の時点で、すでに2ちゃんねるの問題点、そして問題が生じた場合に、プロバイダ責任制限法が施行されたとしても、西村氏の責任となってしまうことは明確に裁判所に判断されていたのである。(本稿末尾の注2参照)

拡大参院選の東京都選挙区に立候補した乙武氏を応援した西村博之(ひろゆき)氏(後ろ) =2022年6月18日、東京都渋谷区

欠陥があるのは法制度ではなく2ちゃんねる

 西村氏は、やがて多発する裁判に音を上げて、リモートホスト情報を保持するようになったが、削除依頼のルールは変わらず、一般の人たちは二次被害をもたらしかねないリスクを負い、恣意的な削除ルールの壁に阻まれ、結局は弁護士などを介さなければ救済がなされないことになっていたのである。

 そして、その被害者救済のための申し立ても、西村氏は逃げ続けた。削除は2ちゃんねるの独自ルールのもと恣意的に行われ、被害者救済に必要な情報の開示はサボタージュされた。西村氏が裁判に敗訴するのは当たり前なのである。

 (「救済されない旧『2ちゃんねる』の中傷被害者とひろゆき氏の賠償金不払  Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【7】」)で前述したKADOKAWA取締役は西村を擁護して、次のようにいう。

 「ひろゆきは最初から裁判を無視したわけではなく、日本の法制度のある種の欠陥により、物理的に裁判に対応できない状況に追い込まれてやむをえず裁判にも出ない代わりに、賠償金も支払わないという選択をとったに過ぎない。あまり褒められた選択ではなないにせよ、自分の利益のためでなく、防衛的な選択だ」

 これがまったくとんちんかんな弁護になっているのは、もうおわかりかと思う。西村氏は、たんに誹謗中傷の被害のために、二次被害を巻き起こす削除要請のルールをあらため、裁判所の命令に応じて投稿者のIPアドレスは開示し、裁判のリスクを回避するために適切な削除措置をするだけでよかったのである。

 一方的で独善的なルールを被害者におしつけて、被害申し立てを門前払いしてきたことが、身動きできないくらいに訴訟が多発した原因である。欠陥があるのは日本の法制度でもなんでもなく、2ちゃんねるのほうなのである。そして西村氏はこの欠陥を改めることがなかっただけなのだ。

 なお、このKADOKAWA取締役のブログでは、当時は西村氏の弁護を引き受けてくれる弁護士がいなかったという旨のことが書かれているが、先の被害女性のケースなどでも西村氏は弁護士をたてるケースはあった。取締役が紹介するまで弁護士をつけられなかったというのは間違いである。それでも敗訴し、時に強制執行され、さらに損害賠償を命じられてきたのである。なお先の「ペット大好き掲示板」事件では、西村氏は5人の弁護士をみずからにつけている。

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筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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