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世界的にスタンダードな経口中絶薬を厳重管理の対象にしてはならない

安全な中絶へのアクセスを妨げないために

塚原 久美 中絶問題研究者、RHRリテラシー研代表、中絶ケアカウンセラー

 ラインファーマ株式会社が、経口中絶薬の日本における製造販売承認を申請してから間もなく1年。親会社によれば、本剤は妊娠初期の薬による人工妊娠中絶(中絶と略す)の国際的なゴールドスタンダードとして認められており(1)、世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストにも掲載されている(2)。当初の報道によれば、早ければ1年以内にも許可されるとのことだったが、まだその見通しは立っていないようだ。

 許可の障害になっているのは、中絶が手術から薬に移行することによる社会全体のモラル低下と病院経営が脅かされるという二つの「恐れ」であろう。本論考では、過去の中絶薬が生まれてから今に至る経緯をひもとくことで、何が女性(3)の安全な中絶へのアクセスを妨げているのかについて論ずる。

拡大fizkes/Shutterstock.com

日本初の経口中絶薬の承認申請

 2021年12月22日、英国に親会社のあるラインファーマ株式会社が、妊娠63日までの妊娠を薬で終わらせる経口中絶薬MEFEEGO™(4)の製造販売承認を日本政府に申請した(5)。これについてNHKは当日のオンラインニュースで次のように報じた。

 厚生労働省はこれから1年以内に有効性や安全性を審査する見通しで、承認されれば国内で初めての経口中絶薬となり、手術を伴わない選択肢ができることになります。……日本産婦人科医会(6)は、処方は当面、入院が可能な医療機関で、中絶を行う資格のある医師(7)だけが行うべきだとしていて、木下会長(8)は「医師は薬を処方するだけでなく、排出されなかった場合の外科的手術など、その後の管理も行うので相応の管理料が必要だ」と述べて、薬の処方にかかる費用について10万円程度かかる手術と同等の料金設定が望ましいとする考えを示しました(9)

 以後、「指定医師に限定」「入院して使用」「10万円(10)」といった情報は一度も覆されていないばかりか、厚生労働省は服用には「配偶者同意が必要」との見解も示している(11)。日本初の経口中絶薬は、承認後、いったいどのような扱いになってしまうのか。承認申請の8カ月前の東大教授の発言に注目し、古い薬との関連を調べていくと、さらにアクセスが阻まれる可能性も浮上してきた。

1. https://www.linepharma.com/linepharma-international-files-for-manufacturing-marketing-approval-of-the-abortion-pill-in-japan/
2. https://www.who.int/publications/i/item/WHO-MHP-HPS-EML-2021.02
3. ここでは妊娠しうる身体をもつ全ての人々を代表させる。
4. ミフェプリストンとミソプロストールの二剤を組み合わせた「コンビ薬」の日本における商品名。
5. https://www.linepharma.co.jp/news_detail.php?id=2
6. 以後、「医会」と略す。
7. 刑法堕胎罪の例外事項を定めた母体保護法に基づく「母体保護法指定医師」を指している。1996年に優生保護法から母体8. 保護法に改正される以前は、「優生保護法指定医師」とされ、どちらも「指定医師」と略され、本稿でもこの略を用いる。
当時の木下勝之医会会長は、2022年6月に石渡勇新会長に交代している。
9. https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/74531.html
10. 実際の中絶手術は10万円では足りない。https://minerva-clinic.or.jp/colum/abortion-costs/

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筆者

塚原 久美

塚原 久美(つかはら・くみ) 中絶問題研究者、RHRリテラシー研代表、中絶ケアカウンセラー

日本の中絶問題をフェミニズムの視点で研究。 訳書『中絶がわかる本』(アジュマ・ブックス 2021年)、『中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション』(共訳 青木書店 2008年)、『水子供養商品としての儀式:近代日本のジェンダー/セクシュアリティと宗教』(監訳 明石書店 2017年)など/著書『日本の中絶』(ちくま新書 2022年)、『中絶のスティグマをなくす本』(Kindle 2022年)/主著『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ:フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房 2014年)は山川菊栄賞、ジェンダー法学会西尾賞を受賞。 SNS:ツイッター @kumi_tsukahara / facebook https://www.facebook.com/kumi.tsukahara

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです