患者に合わせた医療・介護チーム、充実の訪問診療
2022年12月09日
腺がんと神経内分泌がんとの混合という「ややこしい前立腺がん」と向き合いながら活動を続ける隈元信一さんの闘病記6回目です。2021年夏、専門病院で「余命3カ月から半年」と宣告されたが、地元病院の医療チームの努力で激痛から解放され、体調も回復。いよいよ退院の日を迎えました。
昨年(2021年)10月21日、私は東京都大田区の東邦大学医療センター大森病院を退院した。車で病院をあとにするとき、そっと両手を合わせて感謝の気持ちを表した。病人にとって、良い医療機関・医療従事者に出会うか出会わないかは、文字通り死活問題だ。ここに来る前の大森赤十字病院も含めて、私は病院に恵まれたと思う。
そのまま自宅へという手もあったが、介護施設にしばらく(結果的に40日間)いてから自宅へという道を選んだ。
理由はいくつかある。まず、介護ベッドを入れるなど自宅の療養態勢を整える時間がほしかったこと。それに、看護師やヘルパーが常駐していて、医師も定期的に来てくれる施設はありがたい。介護を受けるにはケアマネージャーを決めなくてはならないが、施設には専従のケアマネージャーが常駐しているのも助かった。
区役所の介護認定は入院中に受けていたが、認定までにけっこう手間と時間がかかるから注意が必要だ。
まず、申請をすると日程を調整したうえで調査員がベッド脇までやってくる。「爪は自分で切ることができますか?」といった質問に答えると、その結果を踏まえて介護認定調査会が開かれ、要介護の区分が決まる仕組みだった。地域差や個人差があると思うが、私の場合は申請から認定まで1カ月以上かかった。
あとは自分の希望に合う介護施設を探すだけだった。どんな施設に入るか。病院に相談してみたが、病院では紹介できないという。それはそうだろう。特定の施設との「癒着」は避けなくてはならないから。
入院中に介護施設を案内するパンフレットをいくつか取り寄せた。その一つひとつを妻が下見に行き、設備や雰囲気、スタッフがどうなっているかなどを調べてくれた。
私の場合、選択のポイントは以下の通りだ。
①医師は常駐でなくてもかまわない。常駐だと、料金がかなり高くなる。
②看護師はできれば24時間常駐が望ましいが、朝から夕方まででもかまわない。
③施設の中で交流会などがなくてかまわない。
施設で療養しながら、執筆活動や大学の講義もこなす。施設側から見れば、私は珍しい入所者だった。
連載:死をみつめる【がんと向き合う】
①病は不意打ちでやってきた
②激痛に耐えながら受けた余命宣告
③「がんばれ」は「がんを張り倒せ」だ
④「普通」ではないがん、治療の選択肢は少なく
⑤コロナ禍、家族が消えた病院は
結局、様々な条件を考慮し、予算の範囲内で選んだのは、病院や自宅と同じ東京都大田区内の指定介護保険特定施設「そんぽの家 大鳥居」だった。自宅に近いと行き来がしやすいし、通院も近い方がありがたい。緊急時の備えとしても安心だった。
実際に入居してみると、思っていた以上に快適だった。
食事は日替わりで工夫を凝らしてくれて、病院よりおいしかった。入所の翌日に散髪、入浴でリフレッシュした時は、生き返ったような気分になった。たまにストレッチャーや車椅子で移動してシャワーを浴びるだけの病院と違って、自分の部屋で浴槽につかれるのが夢のようだった。
1回15分という制限付きながら、面会も可能になった。入所当日に飛んできてくれた友が「とにかく元気そうな顔が見られて良かった」。その後、連日のように面会が入ったのは、みんなが同じような思いを持っていたからに違いない。涙もろい私は、面会者の前で涙が出て困った。
介護施設を出て自宅に戻ったのは、昨年(2021年)の11月29日である。
翌日、介護サービスの「担当者会議」が我が家で開かれ、ケアマネージャー、医師、看護師、理学療法士、ヘルパー、介護ショップのスタッフらが集まった。この顔ぶれは、最初にケアマネージャーを決めれば、あとはケアマネージャーが複数の候補を挙げてくれて、その中から選ぶ仕組みになっている。私の場合はケアマネージャーのほか、医師は自ら提案して決めさせてもらった。ここにもまた以下のような人と人の不思議な縁があって、感慨深い。
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