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ネット空間の海賊のユートピアをつくったひろゆき氏の厚顔無恥な「才覚」

Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【10】

清義明 ルポライター

拡大西村博之(ひろゆき)氏=2022年6月19日(撮影:清義明)

 この連載「Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー」ではこれまで、西村博之(ひろゆき)氏がジム・ワトキンス氏と争って敗れた裁判、通称「2ちゃんねる乗っ取り裁判」について書いたが(参照:第1回「西村博之とジム・ワトキンスの2ちゃんねる骨肉の争い/上」第2回「西村博之とジム・ワトキンスの2ちゃんねる骨肉の争い/下」)、実は両氏にはこの裁判とは別にもうひとつ争っている裁判がある。その裁判には、この二人の関係を極めてよく知るある人物が登場する。

 2ちゃんねるに深く関わり、西村氏を2ちゃんねるとの関係を考えるうえで重要な証人になるであろうこの人物、「FOX」こと中尾嘉宏氏を探して北海道に飛んだ私は、札幌郊外のマンションでついに中尾氏と面会することができた。

 西村氏とジム・ワトキンスとの裁判やジム氏との関係などに関する質問にはぐらかしながら答える中尾氏は、「アメリカではQアノンというムーブメントと騒動が起きていて、ジム氏の息子のロン・ワトキンス氏がその正体だと言われている。少なくとも密接に関わっていることは間違いなそうだが……」にも、「Qアノンなど今、初めて聞いた」とにべもなかった。

★連載「 Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー」のこれまでの記事は「こらら」からお読みいただけます。

拡大Qアノン関連のイベントに出席したロン・ワトキンス(右)とジム・ワトキンス=2021年10月23日、米ラスベガス

ロン・ワトキンス氏は「愛嬌のある子供」

 ただ、ロン氏については、子供の時からよく知っている、と懐かしそうに話してくれた。

 「いたずらっ子だったし、愛嬌(あいきょう)のある子供だった。いつだか空港の荷物検査で、大人の列に後ろから近づいて、『バン!』と大きな爆発する音を真似したら、そいつらがひっくりかえらんばかりに驚いてね。あの時は面白かった」。この頃のロン氏に、おそらく西村氏も会っているのだろう。

 一方で、当時、札幌にいると思われたロン氏の行方に関しては、知らないの一点張り。私が把握していたロン氏の自宅の所在地の名前を出しても、答えは変わらない。そんなことはないはずだが……

西村博之氏の直轄だった削除業務

 話題を変えた。

 2ちゃんねるはかつて、大規模な家宅捜査を受けたことがある(前述)。その際に中尾氏の会社も対象となった。この時、他に家宅捜査を受けたのは、未来検索ブラジル社と西村氏の自宅だけ。中尾氏がいかに密接に2ちゃんねるの運営に携わってきたかがうかがえる。「ありゃ大変だったよ」と、この件については、面白おかしく語ってくれた。

 家宅捜査の原因となった2ちゃんねるの削除対応と、それを巡って西村氏が数々の裁判で敗訴してきたことについて、中尾氏の関わり合いを聞くと、削除業務には中尾氏は関わっていないとのことだった。もっぱらボランティアがやっていることで、その業務は西村氏の直轄だったようだ。しかし、こうも言った。

 「だからオレは言ったんだ。消してほしいっていうのだから、消してやればいいんだって。なにを(西村氏が)強情になっていたのか、オレにはさっぱりわからんよ」
私も同意見である。中尾氏が家宅捜査された原因となったのも、警察からの麻薬取引の削除依頼を無視したことから始まる。依頼の無視が麻薬取引をほう助するものとみなされたからだ。削除してほしいという要望に、多くのサイトがそうするように素直に対応していれば、西村氏の数十億円にのぼるという賠償命令もなかったことだろう。

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筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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