メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

2ちゃんねる商標侵害裁判のひろゆき氏の主張から見えた「論破王」の正体

Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【11】

清義明 ルポライター

拡大西村博之(ひろゆき)さん=2022年6月19日(撮影:清義明)

 前回の第10回「ネット空間の海賊のユートピアをつくったひろゆき氏の厚顔無恥な「才覚」」で、4chanについて取材を進めていた私が、西村博之(ひろゆき)氏とジム・ワトキンス氏との2ちゃんねるを巡る裁判の第2ラウンドのことを知ったというところまで書いた。今回は、そこから話を始めよう。

 「2ちゃんねる乗っ取り裁判」と呼ばれる、2ちゃんねるの所有権を明らかにする裁判に、西村博之(ひろゆき)氏が敗訴したことについては、この連載ですでに語ってきた(参照:第1回「西村博之とジム・ワトキンスの2ちゃんねる骨肉の争い/上」第2回「西村博之とジム・ワトキンスの2ちゃんねる骨肉の争い/下」)。だが、もうひとつの裁判が進行していることについては、これまで書いていなかった。

 2ちゃんねるの商標侵害裁判である。

2ちゃんねる乗っ取り裁判の“第二ラウンド”

 これは、ジム・ワトキンス氏による2ちゃんねる乗っ取り(2014)以降、西村博之氏が所有する「2ちゃんねる」の商標を侵害していたことによる損害賠償請求だ。ジム・ワトキンス氏は2ちゃんねるを掌握した後、「5ちゃんねる」と名称を変更したが、それまでの間の損害賠償1億7500万円と、ドメイン名の使用を中止するまで月額500万円を請求された。

 (「2ちゃんねる」の商標権については、これらの二つの裁判に先立ち、西村氏の所有するものと別の裁判によって早い段階で認められている。この前哨戦ともいえる、ジム氏と西村氏の裁判があるため、三度目の裁判ということにもなる。)

 2020年の一審判決では、ジム・ワトキンス氏側が「2ちゃんねる」の名称を使うことを禁ずる判決が出て、それ以外の損害賠償請求は退けられた。この連載で書いてきたように、ジム・ワトキンス氏はすでに、2017年にサイト名称を西村氏が商標権を所有する「2ちゃんねる」から「5ちゃんねる」に変更していた(公式の見解では別名称ではなく、新たに2ちゃんねるとは関係がない5ちゃんねるというサイトを立ち上げたことになっている)。

 2ちゃんねるの名称を禁じられるという判決は、そもそも先行する商標権裁判によって西村氏の権利が認められているため、ジム・ワトキンス氏にとっては想定内であり、損害賠償請求が棄却されたことを考えれば、西村氏の実質敗訴といえる。しかし、西村氏は判決直後に控訴し、これが現在も係争中なのである。

 この東京高裁での裁判では、当時の2ちゃんねる関係者の様々な証言が出てきている。双方ともに背に腹は代えられないのであろう。裁判記録を読むと、2ちゃんねるの運営実態について、西村氏側とジム・ワトキンス氏側がそれぞれ赤裸々な運営実態を明らかにしている。2ちゃんねるを実際に所有していたのは誰であるかを、裁判の趣旨にあわせて明らかにしなければならないからだ。商標権裁判はまさしく、2ちゃんねる乗っ取り事件裁判の“第二ラウンド”になっている。

証人として陳述書を提出した「FOX」

 裁判では、今までひたすら隠し続けてきた西村氏の個人会社東京プラスが、実質的に2ちゃんねるの売上収入の窓口となっていたことを自ら明らかにしていた。2ちゃんねるを手放したとうそぶいていたことが全くの虚言であることを、自ら告白したわけである。

 そのほかにも、当時の2ちゃんねる関係者が実名で裁判で証言しているなど、たいへん興味深い裁判なのだが、なかでも私が驚いたのは、あの「FOX」こと中尾嘉宏氏が証人として陳述書を提出していることだ。

 私はその陳述書の実物を裁判記録から読むことができた。代筆なのは間違いないだろう。面会したときに目の当たりにした病状で、このような理路整然とした説明ができるとは私には思えなかったからだ。誰かが何時間もかけて聞き取りをしたのだろう。札幌の中尾氏のオフィスで会ったS氏が書いたのかもしれない。私のメールにS氏から返事がなかったのは、おそらくそのためだったのだろう。

 最悪の体調をおしても、中尾氏はジム側の人間として、せいいっぱいの姿勢を示そうとしたのであろう。陳述書の最後に自筆の署名があるのだが、その字も震えて乱れていたことが、病状の深刻さを物語っていた。

拡大「FOX」こと中尾嘉宏氏=2021年4月8日(撮影:清義明)

★連載「 Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー」のこれまでの記事は「こらら」からお読みいただけます。

>>関連記事は「こちら」から


筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

清義明の記事

もっと見る