組織委と利害を共有したことで、招致疑惑の実名報道に及び腰に
2022年12月19日
最終回の今回は、租税回避地での資金洗浄犯罪の淵源となった1991年のBCCI(国際商業信用銀行)事件、そして租税回避地を舞台とした各国の政財界要人の不正蓄財を暴いた2016年のパナマ文書事件の報道傾向を比較することで、朝日新聞社、読売新聞社東京本社、毎日新聞社、日本経済新聞社の東京五輪スポンサー(オフィシャルパートナー)新聞4社による東京五輪招致段階での国際的な買収疑惑(以下、五輪招致疑惑)と報道の特徴を検証したい。そのうえで、五輪をめぐる報道メディアの問題について論じていく。
「東京五輪とスポンサー新聞社」の過去の連載はこちら
五輪招致疑惑は2020年夏季五輪大会の招致をめぐって、大手広告代理店「電通」元専務で東京五輪招致委委員会の「スペシャルアドバイザー」であった高橋治之被告が海外のペーパーカンパニーや不可解な贈答物を使って国際オリンピック委員会(IOC)委員らを直接的かつ間接的に買収した疑惑を指す。
これに関連して2016年9月、招致委理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)竹田恒和会長(当事)はこの疑惑を一貫して否定し、JOC調査チームも「違法性はない」と結論付けた1。だが、フランス検察当局は2018年末からこの疑惑の予審手続きを開始したことで、竹田氏は2019年にIOC委員を辞任し、JOC会長を退任した。翌2020年にJOCがこの疑惑の再調査を否定したのを期に、国内報道メディアの報道もほぼ終了した2。ただ一部の独立系報道メディアや一般市民の疑念がくすぶり続け3,4、フランス検察当局は2022年12月末現在でも捜査を継続中である。
スケールの大きさや範囲の広さなどBCCI事件やパナマ文書事件ほどではないにせよ、五輪招致疑惑は「オリンピック」そのものの存在意義に関わる重要な論点であることには間違いない。しかも、五輪招致疑惑は2020年夏季大会(開催は2021年)だけではない。明るみに出たものだけでも1998年冬季大会、2002年冬季大会、そして2016年夏季大会など、ほとんどすべての五輪招致でIOC委員の不正買収工作が行われてきた。
ここで五輪スポンサー新聞4社の五輪招致疑惑に関する報道状況の調査結果を示したい。それぞれの新聞社の記事アーカイブで「五輪招致疑惑」をキーワード検索すると、記事数は朝日新聞で112本(1998年12月18日-2020年9月24日)、読売新聞で113本(1998年12月13日-2021年2月14日)、毎日新聞で176本(1998年12月24日-2021年1月31日)、日経新聞で84本(1998年12月23日-2021年12月4日)、4紙合計で485本を確認した(表1)。
これらの記事の中には2020年夏季五輪招致のほか、1998年冬季五輪招致、2002年冬季五輪招致、2016年夏季五輪招致の買収疑惑が多く含まれる。五輪招致では必ずと言っていいほど不正・不法行為が繰り返されてきたため、五輪スポンサー新聞4社も高い関心をもってこの問題を報道してきたことが分かる。
しかも、2002年ソルトレイク五輪や2016年リオデジャネイロ五輪の招致疑惑では捜査当局による逮捕・起訴以前やIOCの処分決定以前から五輪スポンサー新聞4社それぞれが一部海外報道メディアの記事を引用しながらも実名報道に踏み切っていた5,6,7,8。これは立件前の被疑者の実名報道がほとんど無かった東京五輪の五輪招致疑惑とは対照的である。しかも、海外報道メディアの転電というクッションを置き、安全を確保したうえで取材対象を批判する、五輪スポンサー新聞4社にとってリスクゼロの報道方法とも映る。
一般に同一案件で出稿数とニュース価値は正比例する。ここで五輪招致疑惑、BCCI事件とパナマ文書事件のこれら3件の疑惑・事件についてのニュース価値の内容を考えてみたい。
ジャーナリズム界で世界的な評価を得ているピューリッツアー賞を授賞する米コロンビア大ジャーナリズム大学院のメルビン・メンチャー教授が示したニュース価値を見てみよう。ニュース価値を高める要因には、
などがある9。ニュース価値が高い場合、記事数が増加すると共に、内容も詳細になる。またより一層の情報源の開示と実名報道が求められる。
為政者による汚職や犯罪がからんだBCCI事件とパナマ文書事件、そしてオリンピックという世界最高峰のスポーツ大会招致疑惑はいずれもインパクト性と著名性という点でニュース価値が高かったと考えられよう。
また、
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