遠隔協同の子育てネコ型ロボットの可能性と課題
2022年12月22日
いまや日本だけではなく、世界中で知られているドラえもん。未来からやってきたネコ型ロボットが、出来の悪い小学生の野比のび太のお世話をする、マンガのキャラクターだ。みなさんもマンガやアニメを見ながら、一度は「どこでもドアがほしい」などと思ったことがおありだろう。
そのネコ型ロボットが、21世紀に入って実現した。名前はChiCaRo(Child Care Robot、チカロ)。
ドラえもんを連想させるだるまのような体型に、ピンと立ったネコの耳がついた、ピンク色のずんぐりボディ。手足はない。人工知能が搭載された、遠隔協同の子育てロボットだ。ちなみに、クマの耳がついたタイプもある。
乳幼児を育てる親がすべきことは、毎日信じられないほど多い。数時間おきの授乳や離乳食の用意、おむつ替え、あやして遊んで寝かしつけ、散歩。沐浴(もくよく)の合間に、子供が清潔に過ごせるよう大量の汚れ物の洗濯をして、家の中の片づけや掃除もやらなければいけない。冬となれば、暖房や加湿にも気を配る必要がある。
コロナ禍で2021年度の東京都内の保育所の入所者数は前年より減少し、特に0歳児クラスの空きが増えた。在宅勤務が広がったせいか、延長保育の利用者も減ったという。
しかし入所控えは、子育て家庭の約8割が核家族で、地域の関係も希薄になっている現代の日本において、親子が一日中家で過ごす「孤」育てにつながりやすい。しかもコロナ禍で、祖父母の助けを借りることが難しかったり、支援センターの利用が制限されたりする状況が、ここ数年続いている。
母親一人のいわゆる「ワンオペ育児」では、家事の最中に子供が泣いたり、抱っこや遊び相手を求めてきたりすると何もできなくなる。家事どころかトイレ、食事、睡眠、風呂など自分のこともままならない。家事も子供の要求に応えることもうまくできない日が続くと、子供に対して不適切な行動に出てしまうこともある。
ChiCaRoはそうした厳しい子育て環境で孤立する母親を救うために開発された。開発じたいは2014年だが、2020年から続くコロナ禍でニーズが一気に増している。
開発者の一人は、自身も幼い2人の子供二人を育てる電気通信大学人工知能先端研究センター・特任助教の阿部香澄氏。その企画・製造・販売を手がける大学発ベンチャー・株式会社ChiCaRoの代表取締役社長は、生後半年弱の子供を育てている奥温子氏だ。
奥氏と私は沖縄の産後ケア施設で知り合った。株式会社ChiCaRoの本社は東京にあるのに、その社長がなぜ沖縄に住んでいるのか?
聞いてみると、妊娠を機に子育てしながら仕事をしやすい環境をつくりたいと考えた末、地元に戻ってきたという。コロナ禍で在宅勤務やオンライン会議が中心となったことが、沖縄に住みながら東京のスタッフに指示を出す勤務形態を可能にした。
ただ、奥氏の弟妹がまだ小さく、両親は自身の育児で精一杯。沖縄で仕事を見つけて一緒に引っ越してきた夫と2人で、育児にいそしむ毎日だ。
在宅勤務やオンライン会議の導入は、私にとっても仕事と育児の両立のハードルを多少は低いものにしている。
職場に復帰し、子供を保育所に通わせるようになっても、慣らし保育期間には短時間しか預けられない。慣らし保育期間を育休の延長期間とし、5月からの復帰などを認める職場もあるが、4月から授業が始まる大学で、職員はともかく教員にはそのような柔軟な措置が認められない。午前中に帰ってきた子供を抱いて、オンライン講義を行ったり、オンライン会議に参加したりしたものだ。
いまでも、子供が体調不良で保育所を休んだり早退したりしたときには、そうせざるをえない。文科省の指導で一科目を最低15回講義することが義務づけられており、休講にすると補講を行わないといけない。夫婦ともに県外出身で、体調の悪い子供を急に預ける相手がいないわが家では、体調の悪い子供を自宅で休ませながら行えるオンライン講義は、いわば生命線だ。
ただし、これは子供が長時間抱っこされていてくれる0~1歳の間だけの話である。じっとしていられず活発に動き回るようになると、親が画面の前でじっとしているのは不可能だ。
しかし、ChiCaRoがあれば、話は変わってくる。
ChiCaRoは、お座りができるようになった0歳児から長時間の一人遊びが難しい3歳児までを想定した、遠隔協同の子育てロボットだ。ロボットと言うと、ソニーのペットロボットaiboや、ヤマダ電機の店舗で使われている対話可能な自律移動型ロボットNAVii、ファミリーレストラン・ガストのネコ型配膳ロボットBellaBotなどを思い浮かべる人は少なくないだろう。そうしたロボットとChiCaRoはどう違うのか。
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