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世界女王、坂本花織の決意──「全日本選手権に向けて、2週間走る」

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 イタリア・トリノで開催された2022年グランプリファイナル最終日、女子フリーは驚きの結果が待っていた。三原舞依が初優勝を果たしたのは、それほどサプライズではない。予想外だったのは、今年の世界選手権女王、坂本花織が表彰台を逃したことである。

 坂本は現地に入ってから公式練習ではジャンプミスが目立っていたが、それでもショート・プログラム(SP)はノーミスで滑り切って1位に立った。

イタリア・トリノで開催された2022年グランプリファイナルの女子フリーで演技をする坂本花織=2022年12月11日拡大グランプリファイナルのショート・プログラム(SP)では1位だった坂本花織=2022年12月10日、イタリア・トリノ

 だがフリーの本番前の6分間ウォームアップは、ジャンプが不調で転倒を繰り返した。そこは修羅場を乗り越えてきた世界女王。本番では、気合で立て直してくるに違いない。

 そんな予想は、打ち砕かれた。

 6人のうち最終滑走だった坂本は、冒頭をいつも通り大きな2アクセルから始めた。だが次の3ルッツの着氷が乱れ、後半のフリップが2回転に、最後のループが1回転になるという彼女らしくない演技だった。フリー6位、総合5位。

 予想外の展開に、裏のグリーンルーム(控室)のソファーでモニターを通して見守っていた三原舞依、イザボー・レヴィット(アメリカ)らも、表情を硬くして凍り付いた。

イタリア・トリノで開催された2022年グランプリファイナルの女子フリーで演技をする坂本花織=2022年12月10日拡大グランプリファイナルの女子フリーで演技をする坂本花織=2022年12月11日、イタリア・トリノ

 数分後、テレビインタビューに答えるために坂本がミックスゾーンの近くを通過すると、顔なじみの記者たちの心配そうな視線に「ニコリ」とけなげな笑顔で応えた。

 インタビューを終えて記者たちの前に現れた坂本は、ミックスゾーンでこう語り始めた。

 「この結果を受け止めるしかないし、もうこれは半分目に見えていた結果なので……全体的に全然なんか身体が追い付いていなかったというか、その自分の行きたい方向に行けなかったのが原因で、それも練習からどうにかしてたらたぶん修正できていたんですけど。足が地についてないなというのを、ずっと4分間思っていました」

 そう言って、唇を噛んだ。

 「ショートも僅差だったので、一つのミスも許されない状況の中でこれだけミスしてしまったのは、本当に気持ちの弱さが出たなあっていうふうに思うし、これじゃだめだなって思いました。どうしても結果を狙ってしまうと、だめになることが多いので、なんか自分と戦っていないときほどやっぱり悪い。もうちょっと自分に集中できていたらいいかなと思います」

 ベテラン選手らしく、自分を冷静に分析した言葉だった。だがこの日、ホテルに帰って号泣したのだという。


筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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