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【がんと向き合う⑧】たくさんの薬に支えられて

生活の質を上げるため、服用は欠かせない

隈元信一 ジャーナリスト

 2021年夏に「余命3カ月から半年」と宣告されたジャーナリスト、隈元信一さん。腺がんと神経内分泌がんとの混合という「ややこしい前立腺がん」と闘いながら、執筆や大学での講義などを続けています。(これまでの連載はこちらで)

日々、大量の薬とともに

 がんを告知されてからの1年4カ月、私は薬とともに生きてきた。薬に生かされてきた、と言った方がいいかもしれない。薬を飲むのが日々の一番の仕事のようでもあるし、私の主食は薬だと言っても過言ではないだろう。

 いま飲んでいる薬を、定期的に薬を届けてくれる訪問薬局の説明書に従って並べてみよう。

①マグミット 胃酸を中和し、便を出しやすくする
②ボルタレン 炎症を抑え、痛みを和らげる
③タリージェ 痛みを和らげる
④スインプロイク 便を出しやすくする
⑤アムロジピン 血圧を下げる
⑥バルサルタン 血圧を下げる
⑦ランソプラゾール 胃酸の分泌を抑える
⑧タムスロシン 前立腺肥大に伴う症状の改善
⑨プレドニゾロン 炎症やアレルギーを抑える
⑩デノタス カルシウムやビタミンDを補う
⑪オランザピン 不安や緊張を和らげる
⑫デエビゴ 眠りに入りやすくし、よく眠れるようにする
⑬センノシド 便を出しやすくする
⑭オキシコドン 痛みを和らげる
⑮オキノーム 痛みを和らげる
⑯イクスタンジ がん細胞の増殖を抑える

 どうだろう、この数多さ。

 朝食後に①~⑩(①、⑨、⑩は2錠)の10種13錠で、夕食後に①~③と⑯の4種6錠(①、⑯は2錠)、寝る前に⑪~⑬(⑬は2錠)の3種4錠を飲む。⑭は午前9時と午後9時にそれぞれ2錠ずつ。⑮は痛くなったときに飲む粉薬だ。

 さらに、説明書には、それぞれの薬に、吐き気、めまい、だるさ、発熱、下痢、便秘、震え、全身の痛みなど、様々な副作用が記されている。それを見ただけで、気が滅入る人が多いのではないか。もちろん副作用は可能性であって、実際に私がこんなにたくさんの副作用に襲われているわけではないのだが。

日々飲んでいる薬を手のひらに並べてみた

薬効それぞれ、5つの役割

 薬の数が多くなっているのには、それぞれ処方する理由があるからだ。大きく5つに分類できる。

【1】前立腺がんに対応する

⑯イクスタンジ

 ほかの薬より大きく、しかも1回2錠だから、ほかの薬とは別に飲む。がんと闘うために最も大事な薬だ。前立腺がんの増殖を刺激する男性ホルモンを抑える。

 昨年(2022年)の3月に点滴で受ける抗がん剤(ドセタキセル)の治療が終わったあと、ビカルタミドという、やはり男性ホルモンを抑える薬を朝食後に飲んでいた。その後、前立腺がんの腫瘍マーカー(PSA)の数値が上がってきたため、11月末から、この薬に変更になった。

 変更するに際して、東邦大学医療センター大森病院の薬剤師から口頭で詳しい説明があった。どんな薬で、どんな副作用があるか。からだへの影響が大きいからこその、丁寧な説明だったと思う。

 もらったパンフレットには「1日1回の服用で、1日のうちいつ服用しても構いません」と書いてあった。そこで、飲み始める前に、訪問診療でお世話になっている鈴木内科医院に電話で確認した。「朝食後でなく、夕食後に飲んでもいいですか?」。「いいですよ」という返事を聞いたうえで、夕食後に飲んでいる。先の一覧でお分かりの通り、朝食後に飲む量があまりに多く、毎日確実に飲むだけでも一苦労。少しでも夕食後にまわせれば楽になると考えたのである。

 がんの闘病は、自分の頭で考えて自主的に行動することが大事だ。

 この薬と、連載第4回で触れたゴナックスとランマークという月1回の注射の薬で、がんに立ち向かっていることになる。

⑧タムスロシン

 前立腺がんの症状を緩和する薬。尿道の緊張を緩めることによって、おしっこを出やすくする。

【2】痛みを和らげる

②ボルタレン

 非ステロイド系の消炎鎮痛剤。「効果がシャープであるがゆえに激しい副作用の報告もあり、最近は一般の医療の中では座薬程度しか使われなくなりました」と、鈴木内科医院の鈴木央院長は言う。私が飲んでいるのは正式には「ボルタレンSRカプセル」で、速く解ける顆粒とゆっくり溶ける顆粒を混ぜて、鎮痛効果が長く続き、副作用が軽減できるように考えられている。私のような骨転移もある重篤ながんに対しては、迷わず使われるようだ。

③タリージェ

 神経が痛み信号を伝達するのをブロックしてしまおうという新しいタイプの薬の一つだ。2019年に発売された。「これと、がんの痛みを取るオピオイド(⑭や⑮)を組み合わせれば、末期がん患者の痛みをかなり緩和できるようになりました」と、鈴木院長は説明する。

⑭オキシコドン、⑮オキノーム

 ともに麻薬で、中身は同じ成分でできている。末期がんの強烈な痛みを緩和する分、副作用も強い。服用中もだが、急な減量や中止で起こる副作用も強い。私はたぶん死ぬまで飲み続けることになるだろう。⑭は錠剤で、⑮は散剤(粉薬)だ。錠剤は扱いやすい。散剤は吸収が早く、即効性が特徴だ。私の場合、午前9時と午後9時の2回飲む⑭がベースの薬で、それでも痛くなったら、レスキューの⑮を飲む。今は10mgの1包を処方してもらい、痛みが強いときは2包飲む。1日に平均して4包くらいを毎日飲んでいる。

⑨プレドニゾロン

 痛みに対する補助剤という位置づけになるステロイドの一種。鈴木院長によれば「キーになる薬の一つ」で、「がんによる痛みだけでなく、食欲不振やからだのだるさをかなり抑えてくれる」という。どこまで続けて、どこでやめて、またどこで再開するかといったコントロールが難しい。鈴木院長は、私が大学に通うなどの活動をしている間は使う方針でいるようだ。

【3】副作用を抑える

① マグミット、④スインプロイク、⑬センノシド

 これらは、いずれも下剤。麻薬を使うと、便秘を起こしやすくなるのが昔から最大の悩みだった。④スインプロイクは2017年に発売された薬で、麻薬の鎮痛作用は邪魔せずに腸管への麻痺作用だけをブロックしてくれる。それまでは便の水分を保つ働きがある①マグミットの量などで調整するしかなかった。⑬センノシドは寝る前に飲んで、朝の排便を促す。この3種類の下剤のおかげで私は便秘をほとんど気にせず、快便の日々を送っている。

⑦ランソプラゾール

 胃薬。これだけ薬(特に鎮痛剤)をたくさん飲んでいると、胃がやられる。そこで、胃酸を抑えることによって胃を保護するのが、この薬だ。

⑩デノタス

 カルシウムやビタミンDを補う。通院で月に1回、がんによる骨破壊を抑える薬(ランマーク)を注射してもらっている私にとっては、欠かせない薬だ。ランマークの副作用で、血液中のカルシウム濃度が減ってくるので、補わないと筋肉や神経が正常に働かなくなってしまう恐れがある。

 朝食後に飲む薬の中でもひときわ大きい2錠で、ほかの11錠(いっぺんに飲み込む)とは一緒に飲めない。私は勝手に「デノタス仁王錠(仁王像のもじり)」と呼んでいる。正式には「デノタスチュアブル錠」だ。「チュアブル」の「チュー」は、チューインガムの「チュー」。「かみ砕くか、口中で溶かして服用してください」と注意書きが付いている。大きくて、かみ砕かないと、とても飲み込めない。

【4】眠りに入りやすくする

⑪オランザピン

 不安や緊張を和らげ、気分を落ち着かせる。やる気がしない、興味が持てないなどの状態も改善する。眠気やめまいが起こることがあるから、車の運転などは避けなければならない。

⑫デエビゴ

 眠りに入りやすくし、よく眠れるようにする。昼間の眠気、めまいに要注意だ。⑪、⑫、と⑬センノシドを寝る前に一緒に飲むのだが、どれも小さくてかわいい錠剤なので、私は勝手に「寝る前三兄弟」と呼んでいる。いまの私は眠気が強すぎるくらいだから、⑫は「そろそろやめてもいいかな」と鈴木院長は言う。

【5】血圧を下げる

⑤アムロジピン、⑥バルサルタン

 私はもともと高血圧症で、降圧剤を10年くらい前から飲み続けている。いま飲んでいるので言えば、この二つがそれに当たる。なぜ1種でなく、2種2錠なのだろう。「血圧の数値が高いから」と鈴木院長は言う。「⑤の方が血圧を下げる作用はやや強い。⑥は血圧でダメージを受ける心臓や腎臓を保護する働きもあります」。どうやら臓器を保護する薬も一緒に使うのが、最近の血圧治療の主流らしい。

 いかがだろう。1日に飲むのは、錠剤が15種27錠にオキノームの粉薬を4包くらい。足がつったとき、つりそうなときにのむ漢方の芍薬甘草湯(顆粒)を加えれば、ゆうに30を越えることになる。

1週間分の朝食後から寝る前までの薬をポケットに入れる「お薬カレンダー」。最初は「なんだこんなもの」と思ったが、使ってみると飲み忘れがなく便利だ

副作用への対応と食事の大切さ

 いま私には、どんな副作用が起きているだろうか。

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