メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

文部科学相はなぜ国連勧告を受け入れなかったのか

インクルーシブ教育と「よき二級市民」

三谷雅純 大学教員、霊長類学・人類学の研究者、障害当事者

あなたも論の座に

 脳塞栓(そくせん)症の後遺症で障害を抱えつつ、人類学研究にとりくむ三谷雅純さんの連載「〈障害者〉と創る未来の景色」の6回目は、障害児と非障害児が一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」の取り組みがなぜ、この国では進まないのかを考えます。連載の感想や自分の体験を伝えたい、私も当事者として論じたいという方がいらっしゃいましたら、メールでinfo-ronza@asahi.comまで感想や体験、論考をお送りいただければ幸いです。一部だけになりますが、論座でご紹介したいと思います。(論座編集部)

 2022年9月に永岡桂子文部科学大臣が語気を強めて(と、わたしは感じてしまいました)国際連合(以下、国連)の勧告は受け入れないと述べている姿がテレビに映りました。国連から日本政府に対して出た勧告に対する日本政府の対応のことです。現状の障害児への特別支援教育は「障害児の分離政策」につながるからやめるようにと勧告したことに対する返答でした。

 それに加えて文部科学省が2022年4月、全国の教育委員会に出した通知も問題視されていました。文部科学省は特別支援学級に在籍する子どもが通常の学級で学ぶ時間を週の半分以内にとどめるようにと通知しています。国連は、この通知の撤回も要請していました。自治体によっては、ほとんどの時間を通常学級で過ごす実態があり、国の考えではそのような自治体の態度を許していると特別支援教育に差し障りがあるというのです。インクルーシブ教育のためには通常学級で過ごす方が実質的に有効のような気もするのですが、国の見解は異なっていました。

 これら以外にも、精神障害者の強制入院をやめるようにと勧告されています。これは、あまりに長い間、強制的に精神障害者の入院が実施されると、たとえ障害がコントロールできたとしても病院以外の地域に出て住むことは難しくなり、人によっては実質的に血縁者との縁も切れてしまう不合理を指して言っているのです。強制入院は人権の観点から大きな問題があります。ただし「精神障害者の強制入院」についてはこれ以上触れません。ここでは教育の問題に絞ろうと思います。

車いすで学校で勉強している障害児。 身障者の子どもを教育に組み込むという社会的な考え方。 教室の車椅子に乗った少年。 白い背景に色と平らなベクターイラスト GoodStudio一緒に学ぶ  GoodStudio/shutterstock

誤っているのは国連か日本か

 わたしは不思議なのですが、国連からの特別支援教育の中止勧告は、日本の教育政策にとってきわめて大きな出来事のはずなのに、ニュースではあまり取り上げられません。もちろん、一時的にはマスコミやSNSで話題になったものの、続報はないかのようです。あまりにも取り上げられないため、人びとからは忘れ去られてしまいました。今では中止勧告がなかったかのように扱われます。それは、あたかも「日本の障害児教育は、今のままで進めていけばよい」と国のお墨付きをもらったかのようです。いったいどうしたというのでしょう。

・・・ログインして読む
(残り:約5067文字/本文:約6221文字)