倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹
1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
自動車業界以外が本腰を入れて、投資回収モデル込みで推進を
日本語で専門ニュースを読む限りは、いまだ順調に進捗している自動運転への取り組み。コロナ禍の緊急事態宣言などの下で公開実験を実施できなかった日本政府による公道実証実験も大筋成功できた模様だ(*1)。
(*1)内閣府科学技術・イノベーション推進事務局プレスリリース「SIP第2期自動運転での東京臨海部実証実験の終了」(2022年12月27日)
一方で2022年10月には、フォード社が完全自動運転を目指す開発プロジェクト「Argo AI」の活動終了を発表した。「2021年までにレベル4の自動運転(一定条件の下で完全自動運転を実現する状態)を実現予定であったが、状況が変わり、今後はレベル2(運転アシスト機能)~レベル3(運転者が常に構える必要のある自動運転)の社内開発にリソースを集中する」という。
この「Argo AI」に総額26億ドルを出資していたフォルクスワーゲン社は、同社傘下のアウディ社による完全自動運転開発プロジェクト「Artemis」を12月15日に停止する決議が確実視されると専門メディア各社が報じたが(*2、3)、12月末現在、公式声明で確認できていない。報道をまとめると、「2024年に実現予定だったレベル4の自動運転乗用車はソフトウェア開発の無期延期という形で放棄され、今後は商用車部門で自動運転開発を継続するものの、具体的な実用化時期は明らかではない」という。
(*2) WIRED「自動運転技術の独自開発を“断念”したフォードとVWが進む道」Aarian Marshall、2022年10月31日
(*3) AUTOCAR NEWS「VW Group software shuffle could end Audi Artemis project」Charlie Martin、2022年12月5日
今後多少の事態の変化があったとしても、完全自動運転の開発を中断・放棄する経営判断の背景は、そう変わりそうもない。コロナ禍とウクライナ戦争を契機とする材料・部品の不足とエネルギー価格高騰によって、自動車産業を取り巻く環境とそれに対する投資家の見方が大きく変わった。長期的かつ市場規模の見えない開発への投資を継続する余裕はなくなりつつある。それは自動運転に限らず、自動車産業の全分野、さらには全産業分野に当てはまることではある。
では、「量産規模でのレベル4自動運転の実用化は当初から技術的に厳しいと見られていた」とさらりと語られている完全自動運転は、なぜ自動車産業各社の精緻な経営計画の中で当初のスケジュールから大きく逸脱することになったのか。それはこの10年強積み上げられてきた、自動運転に対する“勘違い”積み上げの歴史、と言わざるを得ない。