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保育士はなぜ虐待をしてしまうのか?~保育士・研究者による体験的考察(前編)

「保育は虐待と隣り合わせ」という状況を生むほんとうの問題とは……

天野諭 中部大学現代教育学部非常勤講師

 2022年11月30日、静岡県裾野市にある認可保育園さくら保育園において1歳児クラスを担任した保育士3名による虐待行為がセンセーショナルに報道された。彼女らは暴行容疑で逮捕され、園長も犯人隠避容疑で刑事告発された(告発は1月下旬に取り下げられた)。

 在園の子どもたちに対し「カッターナイフで脅した」「逆さ吊りをした」など、その行為の異常さが明るみとなった。そして、彼女らのプライベートな情報も報道され、その人物像にも関心が集まった。この事件以降、日本全国の乳幼児保育施設からも連鎖的に虐待事件の報道が相次いだ。

拡大臨時休園したさくら保育園=2022年12月5日、静岡県裾野市公文名

保育園の虐待事件に感じるモヤモヤ

 保育園の虐待事件について、メディアに流布される専門家や研究者の見解は、どうも本質をとらえていないのではいかという疑問が筆者にはある。現職の保育士たちもそれぞれにSNSなどで想いや考えを綴っているが、どこか散漫とした合意のとれなさにもどかしさを感じている。

 保育現場に即したその臨場感のある言葉は、ある意味で虐待そのものを擁護することにつながりかねない危険性を孕(はら)む。例えば、「慢性的な保育士不足の中で子ども一人ひとりを丁寧に保育するなんて不可能だ」など、疲弊した保育現場についての生々しい報告がそれだ。その通りではあるのだが、虐待を説明し得てはいない。

 一方で、今回の虐待事件を非難し断罪する保育士たちもいる。すると今度は、「じゃあ、あなたは絶対虐待をしないと言い切れるのか?」というブーメランが返ってきそうだ。

SNSにふと呟いた言葉

 「保育は虐待と隣り合わせだ」。事件直後、筆者はふとこの言葉をSNSに呟いた。

 筆者自身にも虐待を非難したい気持ちはありつつも、あと一歩間違えば自分が保育士として虐待の加害者になっていた可能性もあったと、心の中に淀(よど)むものがある。そうした反省を踏まえ、筆者なりに言葉を尽くして保育における虐待問題の考察を記す。

 思い上がりに聞こえるかもしれないが、その役割への責任を筆者自身が感じている。なぜなら、筆者は保育士として保育現場を知る者であり、かつ保育を研究し教える者であるからだ。

 どのような者がこの論考を申しているか、読者にとって納得感を持っていただけるよう簡単に筆者の経歴を記しておく。

 筆者は、国家試験にて保育士免許を取得し、約8年認可保育園に勤務した。数年前より、保育士の傍ら大学院で保育学研究を始めた。昨年夏(2022年7月)に保育園を退職し、現在は大学院での研究を継続しながら、保育士養成の専門学校や大学にて非常勤講師として学生の指導にあたっている。受け持っている主な科目は、「保育内容(人間関係)」である。そして、筆者自身の研究調査フィールドは保育園であるため、今でも保育園に通う生活を送っている。

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筆者

天野諭

天野諭(あまの・さとる) 中部大学現代教育学部非常勤講師

保育士を経て、名古屋市立大学人間文化研究科博士前期過程修了。現在、立命館大学人間科学研究科博士後期課程在籍。中部大学現代教育学部非常勤講師、名古屋文化学園保育専門学校非常勤講師、名古屋医健専門学校こども保育科非常勤講師

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです