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ロシアの五輪復帰を後押しするIOCの無責任

北京五輪フィギュア団体戦のメダルは宙に浮いたまま

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 1月25日、IOC(国際オリンピック委員会)が2024年夏季パリオリンピックと2026年冬季ミラノ=コルチナダンペッツォオリンピックに向けて、条件付きでロシアとベラルーシの選手の個人としての出場を許可することを前向きに検討していくことを明らかにした。

 「オリンピック憲章では、いかなるアスリートも差別なく扱われる権利を有する。パスポートを理由に競技に参加することが妨げられてはならない」という声明を出したのである。

 一見耳に心地よい美文だが、なんとも無責任で納得のいかない決断としか言いようがない。

 元々ロシアの選手の出場を禁じたのは、IOCである。2022年2月、北京オリンピック閉会式が終了した直後、ロシアがウクライナに武力侵攻したためだ。IOCは「オリンピック休戦に違反した」とこの時は厳しくロシアを批判し、ロシアとベラルーシの選手、オフィシャルを国際大会から締め出すことを各スポーツ連盟に要請した。

 およそ1年がたった現在、言うまでもなくこのロシアによる侵略戦争はまだ終結していない。それどころか、ロシアによるウクライナ全土の空爆は激化している。ウクライナの国民、アスリートたちは家と財産、家族や友人や生活手段を失い、生命を脅かされ続け、戦死者の中には元オリンピック選手もいた。このタイミングでロシアの選手の権利を擁護する声明を出したIOCは、いったいどういうバランス感覚を備えているのか。

ソチ五輪の開会式で笑顔を見せるロシアのプーチン大統領(右)とIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長=2014年2月7日拡大ソチ五輪の開会式で笑顔を見せるロシアのプーチン大統領(右)とIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長=2014年2月7日

筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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