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飲む中絶薬認可へのあまりに拙速なパブリック・コメント募集

安全で安価な経口中絶薬を求める女性は置いてけぼりなのか?

塚原 久美 中絶問題研究者、RHRリテラシー研代表、中絶ケアカウンセラー

 今月末まで、薬事承認されれば日本初となる経口中絶薬のパブリック・コメント(*1)が募集されている(こちら)。この世界標準の中絶薬の安全性と有効性は折り紙付きであり、承認賛成の輪が広がることを私は期待している。だが気になるのは、今回のパブコメがあまりにも拙速であることだ(*2)。経口中絶薬の承認と取扱いについて「厚生労働省の専門家部会」で審議すると発表されたのは1月20日。その1週間後、27日の審議の場とは経口中絶薬に関する特別な会議ではなく、定例で開かれている2時間の部会だった。

経口妊娠中絶薬として海外で流通しているミフェプリストン(MF)とミソプロストール(ML)=英製薬会社ラインファーマ提供

 その部会直後に記者説明会が開かれ、経口中絶薬の「承認を了承」したと報告するのと同時に、わずか5日後の2月1日からパブコメを1カ月間実施し、その後、上位組織で再度議論すると発表した。しかも、パブコメで意見が求められているテーマはわずか四つ。そのうち二つは既存の中期中絶薬と同等の「厳重管理」にまつわる内容だった。

 いったい何が行われようとしているのか。厚労省はなぜこれほど急いでいるのか。そして、もし提案されているとおりの使い方になった場合、経口中絶薬はこの国でどのような薬として使われていくことになるのだろうか。

そもそも薬剤名すらオープンでなかった 公開制と周知期間の不足

 1月27日、厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会が開かれた。これは定期的に開かれている会合で、全2時間の審議時間に八つ目の議題として「経口中絶薬の承認の有無と使い方」が1週間前に滑り込まされた。英国ラインファーマ社の経口中絶薬メフィーゴパックの「薬事承認が了承」され、それと同時に「この薬については社会的関心が極めて高い」ことから、その部会からわずか5日後の2月1日からパブコメを開始して1カ月間で終了し、その後、上位組織である薬事分科会において再度議論することが、部会終了後の記者説明会で明らかにされた。一部のメディアでは、最短で3月の薬事分科会で承認の有無が決まると報道されている。もしそうなるならば、かなりあわただしいスケジュールになる。

*WHOの経口中絶薬の価格は円相場によって上下する。現在は円安のため、従来より高めになっている

 ただし、パブコメを行う理由として挙げられた「社会的関心が極めて高い」というのは、いったいだれのことを指しているのか。今回のあまりにも拙速なパブコメは、組織的に動ける経口中絶薬反対派の「危険な薬だから反対」といった意見を集め、厳重管理を行うことを正当化しようとしているのではないかと疑りたくもなる。

 そもそも、今回の経口中絶薬の製品名は、ごく最近まで明かされなかった。私は個人的に、あるいはRHRリテラシー研究所の代表として、ラインファーマ社の窓口や個人的に知っている社内の幹部にも問い合わせてみたが、一度も返信はもらえなかった。明らかになっていたのは、同社のホームページに書いてあったのはMEFEEGO™という名前のみで、日本語でどう読ませるつもりかも分からなかった。

 今回、1月20日の朝日新聞デジタルで私はこの薬が「メフィーゴパック」と名付けられたことと、1週間後の27日に「専門家部会」で審議されることを初めて知った。当初は、この経口中絶薬について審議されるための「専門家部会」が新たに設置されたものだと誤解していた。ところが偶然見つけた日刊薬業の記事で、27日の専門家部会とは1月27日に開かれると予定されていた既存の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会のことだと知った。

 すぐに厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会の開催予定を確認したところ、1月13日に発行した「薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会を開催します」の案内の中に、おそらく20日に差し替えられたと思われる「議題(別紙)」(*3)があり、その中に次の議題8が書き込まれているのを確認できた。

[審議事項]
……省略……
議題 8  医薬品メフィーゴパックの生物由来製品又は特定生物由来製品の指定の要否、製造販売承認の可否、再審査期間の指定及び毒薬又は劇薬の指定の要否について

 議題のどこにも「中絶」という言葉すら入っていない。ラインファーマ社の承認申請薬がMEFEEGOという名だと知らなければ、これが経口中絶薬のことだとは誰も気づかないだろう。同時に、この部会ではすでに別の七つの議題と、二つの報告事項、その他一つが並んでいることも知った。全部で11にものぼる議題をわずか2時間の部会で審議するのでは、到底十分な議論がなされるとは思われなかった。

*1 「国の行政機関は、政策を実施していくうえで、さまざまな政令や省令などを定めます。これら政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続が、パブリック・コメント制度(意見公募手続)です」と説明されている。https://public-comment.e-gov.go.jp/contents/about-public-comment 一般に「パブコメ」と略される。なお、当該パブコメのタイトルは2月6日までは【「メフィーゴパック」の医薬品製造販売承認等に関する御意見の募集について】であり、「中絶という言葉さえ入っていない」ことがSNS等で盛んに批判されていた。すると、2月7日に【経口中絶薬「メフィーゴパック」の医薬品製造販売承認等に関する御意見の募集について】に表記が変わっていた。
*2 この1月末に終了し、4万5千を超す意見を集めたと言われる「緊急避妊薬のOTC化」に関するパブコメは、2022年3月からパブコメ実施の可能性も含めた再審議が始まり、9カ月の準備期間があった。OTCとは「Over The Counter:オーバー・ザ・カウンター」の略で、カウンター越しに薬を販売すること。
*3 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001035537.pdf

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