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社会減100人超から社会増100超に~「おしゃれ田舎プロジェクト」で小諸が逆襲

歴史の中で培われた資産を軸に新たな魅力を発信。大軽井沢経済圏の一角でいま何が?

芳野まい 東京成徳大学経営学部准教授

 長野県軽井沢。江戸時代、中山道の宿場町の一つだったこの町は、明治以降、政治や経済、文化の重要人物が休暇を過ごしたり、重要な決定を下したりする“特別な場所”になりました。昭和の高度成長以降は、大衆消費文化の発展を背景に庶民の憧れのリゾートになり、コロナ前には年間800万人以上の観光客が訪れました。時代とともに相貌を変えてきたこの町は、日本の歴史を映す「鏡」でもあります。

 連載「軽井沢の視点~大軽井沢経済圏という挑戦」の第6回では、軽井沢周辺の小諸市に目を向けます。軽井沢とはまた異なる長く豊かな歴史を持ち、文化、経済の中心であった小諸ですが、この数十年間は、元気を失っていました。その小諸が今、外からも活力を得て、じわじわと、魅力的な方法でふたたび輝き始めています

 大軽井沢経済圏の一角を成す小諸市でいま、何が起きているのか?――。市長の小泉俊博さん、市役所で企業立地定住促進を担当する傍ら「まちおこし」のプロジェクトに取り組む高野慎吾さん、そのプロジェクトに民間の立場で協力する東京からの移住者である小山剛さんに、古い店舗を改装して生まれた人気のカフェでじっくり話をお聞きしました。

(構成 論座編集部・吉田貴文)

連載「軽井沢の視点~大軽井沢経済圏という挑戦」のこれまでの記事は「こちら」からお読みいただけます。

拡大小諸城の大手門と石垣=長野県小諸市(撮影:吉田貴文)

小泉俊博(こいずみ・としひろ) 小諸市長
拡大小泉俊博さん(小泉さん提供)
1963年生まれ。長野県小諸市出身。駒沢大学法学部を卒業後、93年から国会議員の秘書。97年に行政書士事務所を開設、小諸商工会議所青年部会長、長野県商工会議所青年部連合会長や長野県行政書士会理事を歴任。2016年に小諸市長に就任。現在2期目。小諸版ウエルネスシティ構想を掲げる。
高野慎吾(たかの・しんご) 小諸市役所職員
拡大高野慎吾さん(高野さん提供)
1986年生まれ。長野県松本市出身。2010年に小諸市役所に入庁。産業振興部商工観光課に配属し、企業誘致、企業支援等を担当。令和元年に小諸の複数の地元民と「おしゃれ田舎プロジェクト」を結成。小諸の街を若い世代が行きたくなる街にするため、店舗誘致や地域のつながりづくりに貢献。
小山剛(こやま・つよし) ログハウスメーカー(BESS)社員
拡大小山剛さん(小山さん提供)
1985年生まれ。2013年に東京都内から小諸市に移住。東京に本社を構えるログハウスメーカーに在籍。イケてる田舎暮らしの提案や宅地開発等を担当する。20代から新幹線通勤を始め、コロナ禍を機にリモートワークが主体に。プライベートでは「おしゃれ田舎プロジェクト」等の地域活動に参加。

近隣で話題になっている「小諸の逆襲」

芳野まい 連載「軽井沢の視点~大軽井沢経済圏という挑戦」では、軽井沢町と、軽井沢と関連する他の町の形成する大軽井沢経済圏について、さまざまな切り口で関係者からお話をお聞きしています。今回は小諸市を取り上げます。

 軽井沢から電車で20分少しの位置にある小諸は、もともと小諸城の城下町。江戸時代は北国街道の宿場町として栄え、明治以降は商都としてにぎわいをみせました。近年、市勢はかつての勢いを失っていましたが、この数年、再び活気を取り戻していると感じます。歴史の中で培われたこのまちの“資産”が、新たな魅力を作り発信する軸となっているのが、とても興味深いです。

小泉俊博 最近、面白い話を聞きました。「小諸の逆襲」という言葉が、近隣の自治体で話題になっているらしいのです。逆襲というからには「以前」があるわけです。つまり、商都・小諸といわれていた以前の勢いが戻りつつあると。そう近隣の皆さんが感じているということだと思うんですね。

 ただ、これは裏を返してみれば、いったんは勢いが失われていたということでもあります。新幹線としなの鉄道の開業から四半世紀がたちますが、振り返れば軽井沢町と佐久市に長野新幹線の駅ができて以降、小諸の経済は明らかに衰退しました

流入人口が流出人口を上回るように

芳野 今、小諸の人口はどれぐらいですか。

小泉 市になって70年近くになりますが、人口のピークは2000年の4万5000人ちょっと。今は約4万1500人まで減っています。市の人口に占める65歳以上の人口(高齢化率)は約33%と全国より高い。お年寄りが多いので、毎年人口が減ってはいますが、ここ数年は減少のペースが落ちています。移住定住政策の効果で「流入人口」が増えているからです。

芳野 統計を見ると、小諸市への流入人口が流出人口を上回る「社会増」の年がここ数年、目立ちます。

小泉 はい。私が市長に就任したのは2016年でしたが、その年は「社会減」が157人、次の年も社会減104人でしたが、3年目に社会増5人と反転しました。4年目の2019年は社会減15人に逆戻りしましたが、20年には再び社会増7人に転じ、21年は社会増10人、22年は上半期までで社会増124人と大幅に増加しています。市長を6年やらせていただいている間に、ここは変わった点だと思っています。

拡大人気のカフェで話し合う(左から)高野慎吾さん、小泉俊博さん、芳野まいさん、小山剛さん=長野県小諸市(撮影:吉田貴文)

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筆者

芳野まい

芳野まい(よしの・まい) 東京成徳大学経営学部准教授

東京大学教養学部教養学科フランス科卒。フランス政府給費留学生として渡仏。東京成徳大学経営学部准教授。信州大学社会基盤研究所特任准教授。一般社団法人安藤美術館理事。一般財団法人ベターホーム協会理事。NHKラジオフランス語講座「まいにちフランス語」(「ファッションをひもとき、時を読む」「ガストロノミー・フランセーズ 食を語り、愛を語る」)講師。軽井沢との縁は深く、とくにアペリティフとサロン文化の歴史について研究している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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