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【68】「住宅穴埋め屋」を生み出した公助の貧困

困窮者を郊外物件に住まわせて転売か 新たな貧困ビジネスの登場

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

失業者らに郊外の空室紹介 『新たな貧困ビジネス』か、相談相次ぐ
『新たな貧困ビジネス』か 生活困窮者で埋まった郊外物件を訪ねた
困窮者で空室穴埋め? 弁護士ら『貧困ビジネス』訴え、国に調査求める

 2月12日以降、朝日新聞のデジタル版と紙面に独自取材に基づく記事が相次いで掲載され、新たな形態の「貧困ビジネス」を追及する報道として大きな反響を呼んでいる。執筆したのは、これまでも「囲い屋」や「買い取り金融」等、数々の「貧困ビジネス」業者の実態を調査報道で明るみに出してきた室矢英樹記者だ。

 「炊き出しの場で『アパートで生活保護を受けられる』と声をかけられて、東京の多摩地域や千葉・埼玉など郊外の物件に連れて行かれたが、交通の便が悪くて仕事探しもできず、不透明なサービス利用料も取られるので、逃げ出してきた」という相談が、都内の各困窮者支援団体に寄せられるようになったのは、2年ほど前からのことである。

一般社団法人に紹介された賃貸マンションに入居した男性。出費を抑えるため、日中も布団をかけて寒さをしのいでいた=2022年11月28日午前11時38分、東京都羽村市、室矢英樹撮影拡大紹介された賃貸マンションに入居した男性。出費を抑えるため、日中も布団をかけて寒さをしのいでいた=2022年11月、東京都羽村市

困窮者を「穴埋め」の駒のように利用

 NPO法人TENOHASIや反貧困ネットワークなど、都内の各支援団体の関係者の間で警戒を強め、互いに情報を共有したところ、特定の団体に関わる相談が合わせて約30件にものぼることが判明した。

支援団体「住宅穴埋め屋対策会議」メンバーの林治(右)、猪股正(左)の両弁護士=2023年2月16日午後2時36分、東京・霞が関、室矢英樹撮影拡大会見する「住宅穴埋め屋対策会議」メンバーの林治(右)、猪股正両弁護士=2023年2月16日、東京・霞が関

 今年に入り、貧困問題に取り組む法律家や各団体の関係者が集まって、「住宅穴埋め屋対策会議」が結成された。代表幹事には「住まいの貧困」問題に詳しい林治弁護士が就任した。

 「住宅穴埋め屋」とのネーミングは、生活困窮者を集めて入居率をアップさせたマンションが高額で転売されている事例が見つかったことに由来する。空室の多かった郊外のマンションを「優良物件」に生まれ変わらせて転売するために、生活困窮者を「穴埋め」の駒のように利用しているのではないか、との疑いが深まったからだ。

 「住宅穴埋め屋対策会議」は2月16日、厚生労働省に実態調査を求める要請書を提出した。18日からは被害者からの相談をウェブで受け付ける相談受付フォームも開設している(【相談会】「住宅穴埋め屋」被害にあわれた方の臨時相談会、2月28日まで)。

貧困ビジネスが生まれる背景に何があるのか

 そもそも「貧困ビジネス」とは何だろうか。そして「貧困ビジネス」は生まれる背景には何があるのだろうか。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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