出入国在留管理庁「現行入管法の課題」広報の偏見
2023年02月27日
2年前の通常国会に提出されたものの、名古屋入管に収容中だったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題によって廃案になった入管法改正案。その骨格を維持した法案を、政府は開会中の今国会での成立を目指しています。「理解」を求めて、現行法で生じている「課題」を強調する政府の広報に、外国人の人権保護に取り組む児玉晃一弁護士が反論します。
2023年2月20日、出入国在留管理庁がWebサイトで「現行入管法の課題」を公表しました。
2021年12月に出された「現行入管法上の問題点」については、以前に論座で〈「前科者は送還してしまえば良い」という政策は政府の方針にも反します~入管庁資料「現行入管法上の問題点」の問題点〉として書かせて頂きましたが 、今回の「現行入管法の課題」は、その時に指摘したものだけでなく、問題のある記述が多々見受けられます。
今回の「現行入管法の課題」は表紙含めてスライド5枚。前回の「現行入管法上の問題点」は18枚でした。凝縮されている分、ともかく、「送還忌避者」や難民申請者が、重大犯罪者であるかのごとき記述が目立ちます。
稲葉さんは、また、「論理的に破綻した政策をどう押し通すのか。古今東西の政権が幾度となく活用してきたのが、マスメディアを使って人々の感情に訴える手法である。」、「一部の人たちにマイナスイメージを付与することで、自らが実現したい政策を後押しする方向に世論を誘導するのは、古典的な手法である。」とも指摘しています。
「現行入管法の課題」では、2021年12月末時点で、出入国在留管理庁のいう「送還忌避者」3224人のうち、約3分の1の1133人が前科を有する者としていますが、そのうち実刑判決を受けた人は515人です(スライド3枚目)。
ですが、2021年12月末時点で入管に収容されている被収容者は、入管統計によれば全国で124人です(※1)。 収容されている124人のうち、何人が出入国在留管理庁の定義する「送還忌避者」で、かつ前科を有するのかはわかりませんが、仮に全員だったとしても、残りの1000人以上は収容されていない、つまり仮放免されていることになります。したがって、入管自身が社会内での生活を認めている訳です。とりたてて問題視する程のことではないことがわかります。
※1:なお、長期収容が予定されている入国者収容所東日本入管センター及び同大村入管センターの合計は31人に過ぎません。
そして、前科があるからと言って、送還してしまえば良い、というのは、再犯防止のために最も重要な住居と雇用を奪うことに繋がりかねません。それは、国際的な犯罪防止を謳った2021年京都コングレスの決議にも反することは、以前〈「前科者は送還してしまえば良い」という政策は政府の方針にも反します 入管庁資料「現行入管法上の問題点」の問題点〉で述べたとおりです。
「現行入管法の課題」では、「仮放免者の逃亡事案が多発している」との項目を設けています(スライド3枚目)。
まず、ここで「逃亡」とされているのが、どのような場合を「逃亡」と述べているのか、定義が不明確です。入管に指定された日に出頭しなかったということではないかと思いますが、仮放免者は働くこともできず、生活保護も受けられず、国民健康保険にも加入できません。「逃亡者」には、健康を害して出頭できず、場合によっては命を落としている人も含まれているのではないでしょうか。入管に出頭する交通費もなく、ホームレスになってしまった人もいるのではないでしょうか。
また、2019年には、ハンストで衰弱した結果、数年ぶりに仮放免が許可されたもののわずか2週間後の出頭日に再収容されたケースが相次ぎました。2020年9月に、国連の恣意的拘禁作業部会が、自由権規約が禁止する「恣意的拘禁」にあたると認定した2人の難民申請者もそうでした。それを知った別の仮放免者が、また数年もの収容生活に戻るのを恐れて逃亡したこともあります。
2020年4月以後、コロナまん延防止のために仮放免が活用されるようになり、被収容者は激減しましたが、流行が収まってきた2021年11月に入管は運用を元に戻す旨の通達を出し、再収容が始まりました。この運用変更をおそれて、出頭できなかった方が増えたのが、「逃亡者」増加の原因ではないでしょうか。
このように、入管による、「全件収容」「原則収容」政策が、「逃亡者」を増やしているのではないかと推測できます。「現行入管法の課題」では、「逃亡防止措置が十分でなく、逃亡事案が多数発生」としていますが(2枚目のスライド)、現行法の仮放免保証人制度は制定時から同じです。ですから、この数年間で「逃亡者」が増加した原因とはなりません。「現行入管法の課題」ではほかに「逃亡者」が増えた原因を示していないのです。原因がわからないのに、対策など立てようがない。それなのに、安易に監視を強化する方向に誘導しようとしているのです。
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