メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「ネットカフェ難民」と「生理の貧困」 “メディアの言葉”が社会問題を認識させる~リーマン貧困とコロナ貧困の比較(上)

SNSの急拡大が与えた影響とは?

水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

 2008年に起きたリーマンショックの頃の「貧困」と2020年以降のコロナショックでの「貧困」――。

 近年の日本社会で生活困窮と貧困の嵐が覆った二つの時期を比較しながら、テレビなどのメディアが「貧困」をどのように伝えたのかを検証する書籍を最近まとめた。

 『メディアは「貧困」をどう伝えたか』(同時代社)という本だが、かつてテレビ報道の最前線にいて現在は大学でジャーナリズムを研究する立場にある筆者にとって、「貧困」の報道はいわばライフワークともいえるテーマだ。

 戦後すぐの混乱期の後の高度成長期以降に「一億総中流」の幻想が浸透した日本社会では「貧困」という言葉は長い間「存在しないもの」とされてきた。21世紀に入ってから経済のグローバル化や非正規雇用の広がりなどで「貧困」が拡大したとされ、メディアも2006年頃からこの問題を活発に報道していた。

拡大テレビをみながら、リクライニングシートの個室で休む若者=2006年10月、大阪市内のネットカフェ

 今回は書籍での研究成果のなかから貧困のありようを規定する「言葉=キーワード」に注目して、報道の言葉の効果について考察したい。

貧困を規定する言葉に注目して「議題設定機能」を分析

 メディア論の分野ではメディアが何かの問題を取り上げ、ニュースなどを通じて社会や政治の課題になっていくことをメディアの「議題設定機能」と呼ぶ。例として「宗教2世」という言葉に注目すると、この言葉がニュースで大きく取り上げられるようになったのはこの1年ほどの間に過ぎない。「宗教2世」とされる当事者たちが記者会見し、政府や国会議員に要望書を出し、弁護士、研究者やジャーナリストなどが問題の深刻さを訴えた。

 抜本的な解決策が必要だとして新しい法律をつくるなどの取り組みを求めるアクションを起こす人たちもいる。そうした動きをメディアが取り上げてニュースなどで伝えることで「政治の問題」「社会の問題」として認知されて「政治や行政などが解決すべき議題」として認識されるようになっていく。

 メディアによる問題提起がうまく機能した時、「議題設定機能」が働いたと評価し、うまく機能しない時には、働かなかったと評価する。メディアが伝える時にどんな言葉でその問題を使って伝えるのかは人々の認識に大きく影響する。

 メディアは、記事の「見出し」や番組の「タイトル」などでその問題を提起して、なるべくわかりやすく問題を伝えようとする。21世紀以降の日本社会で比較的大きな貧困の時期となったリーマンショックの頃とコロナショックの頃を“メディアの言葉=キーワード”で比較してみたい。

番組やCMをテキスト・データ化する分析ツール「TVメタデータ」

 筆者が分析に使用したのが「TVメタデータ」である。これは株式会社エム・データの商品で地上波やBSテレビ局で放送されたテレビ番組やTV-CMについてテキスト・データ化して構築されている。いつ、どの局のどんな番組で、誰が、どんな話題を、どの商品を、どのくらいの時間、どのように放送されたのかなどを、独自のデータ収集システムを使用して生成している。

 筆者は今回、同社の協力を得て、2006-2010年、2012-2013年、2020-2021年の地上波テレビの首都圏での放送ついて「TVメタデータ」を使って分析した。


筆者

水島宏明

水島宏明(みずしま・ひろあき) ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。札幌テレビ、日本テレビでテレビ報道に携わり、ロンドン、ベルリン特派員、「NNNドキュメント」ディレクター、「ズームイン!」解説キャスター等の後、法政大学社会学部教授を経て16 年4 月から現職。主な番組に「ネットカフェ難民」など。主な著書に『内側から見たテレビ』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

水島宏明の記事

もっと見る