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性犯罪及び性依存症者の教育プログラムは今

再発防止、薬物療法、性加害行為に責任を取る

香月真理子 フリーランスライター

 刑法の「性犯罪をめぐる規定」を見直す議論が進んでいる。性犯罪者に対する社会の見方は、ますます厳しいものとなってくるだろう。加害がなくならない限り、被害はなくならない。性犯罪者に対する加害者臨床も、今後ますます重要になってくると思われる。

 今現在、どんな教育プログラムが行われているのか、依存症治療ではアジア最大規模を誇る榎本クリニックを訪れた。1992年に開業した榎本クリニックは、都内を中心に7つのクリニックを運営する精神科・心療内科のクリニックで、アルコールやギャンブル、薬物、性、インターネット、クレプトマニア(万引き)などの依存症を対象としたプログラムがある。そのうち、性依存関連のプログラムは東京・池袋と神奈川県の大船で主に行われ、これまでに2500人以上が受診している。

 このプログラムの基礎をつくった精神保健福祉部長の斉藤章佳さんに詳細を聞いた。斉藤さんは当クリニックの精神保健福祉士・社会福祉士で、著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)『「小児性愛」という病──それは、愛ではない』(ブックマン社)、最新刊の『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)がある。性依存症治療のことはじめは2003年。

 「当時担当していたアルコール依存症の患者さんが、一定期間断酒が安定してきたにもかかわらず、突然クリニックに来なくなりました。その後、飲酒が止まってからずっと子どもに性犯罪を繰り返し、警察に逮捕されていたことが面会に行ってわかりました。酒をやめたことで、自分の根っこにある本質的な性の問題が表に出てきたのだと思いました」

 その翌年には、奈良小1女児殺害事件が起きた。その加害者もまた、子どもへの性犯罪を繰り返していた。

 「繰り返す性犯罪には反復性・嗜癖性があり、依存症モデルでとらえると最もわかりやすく、一般の人にも理解しやすいのではないかと思いました。私自身は当時、アルコールや薬物、ギャンブル依存症に対する臨床経験があり、さらに、当時はまだ日本に普及していなかったDV加害のプログラムにも携わっていたので、その原理・原則をベースに、加害者臨床の基礎になる治療プログラムをつくっていきました」

奈良小1女児誘拐殺害事件/初公判を終え、奈良地裁を出る小林薫被告を乗せた車=2005年4月18日拡大奈良小1女児殺害事件の加害者(2013年に死刑執行)は、その事件の前も性犯罪を繰り返していた=写真は2005年4月18日、公判が開かれた奈良地裁前

 「日本の矯正施設で性犯罪者処遇プログラム(通称R3)が始まったのと同じ2006年、クリニックに通院していた患者さんの中から、飲酒して痴漢行為やのぞきをしたなど、性に何らかの問題を抱えた3人に声を掛け、ミーティングを始めました。これは依存症の自助グループなどで行われているのと同じもので、体験談を仲間の中で順番に話し、ほかの仲間は黙って聞き、聞いた内容は外に漏らさないという『秘密保持の原則』をベースにしています。見よう見まねで始めたプログラムで、まさかのべ2500人以上が利用することになろうとは夢にも思いませんでした」

 しかし、反復する性加害を依存症という「疾病モデル」でとらえることは、加害者に言い逃れの口実を与えることにもなり得る。

 「性加害者の再加害防止プログラムは、国の施設で医療モデルが介入しない形で行うのが理想だとは思います。本来、医療は疾病を対象とするものですから、治療するということは彼らが病気であり、ケアの対象であると認定することになる。そうすると、自らの行為や被害者に対し、どう責任を取るのかということが隠ぺいされやすくなる。つまり、『過剰な病理化は本人の行為責任を隠ぺいする機能がある』ということです。そこで私は、プログラムでは原因と責任を分けて考えることにしました」


筆者

香月真理子

香月真理子(かつき・まりこ) フリーランスライター

1975年、福岡県生まれ。西南学院大学神学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、2005年からフリーランスライターに。著書に『欲望のゆくえ──子どもを性の対象とする人たち』(朝日新聞出版)』。現在、『ビッグイシュー』に執筆中。新型コロナ自粛中に応募した短編小説『獄中結婚の女』が山新文学賞(4月分)準入選に。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです