新型コロナの感染が始まって早くも3年が経過した。一時は不要不急の外出は避けられ、全国の観光地は苦境を強いられていた。そうした厳しい状況にありながら健闘している観光地があった。長野県の野沢温泉村である。
名は体を表すの通り、この村は昔から名湯が湧く地として知られているが、今日においてはパウダースノーが楽しめるスキー場として国内外からの人気が高い。人口わずか3500名の小さな村になぜ国内外から多くの観光客が訪れるのか。観光を軸とした村づくりがどのような仕組で進められているのか。野沢温泉村の根底に潜む観光の魅力と力の源を探ってみた。
コロナ禍前のにぎわい取り戻した野沢温泉スキー場
野沢温泉村は長野県の北部にあり、村の西側を千曲川が流れ、東南側に村内の最高峰、毛無山(1650メートル)がそびえている。北陸新幹線の飯山駅、または上信越道豊田飯山IC方面よりやってくると道が大きくカーブしたあたりから村が一望できる。正面に尾根を左右に広げた毛無山を望み、その谷を下ったところに温泉宿などが立つ集落が広がっている。山に守られ、谷に包まれた村であることがよくわかる。その谷筋に沿ってゲレンデが延びている。

毛無山(中央右手奥)を頂点にして尾根が続き、麓に野沢温泉村の集落が広がる(筆者撮影)
多くのスキーヤーでにぎわうそのスキー場へまず足を運んでみた。山上のゲレンデへは日影地区と長坂地区の2箇所からゴンドラリフトが延びている。今回は3年前の12月に新たに付け替えられた長坂ゴンドラで上がってみた。
集落の背後、山際に立つ長坂センターハウスから毛無山の山頂近くまで延長約3130メートルを8分40秒ほどで一気に上る。以前は中間駅を経由しての移動だったが今はその不便さが解消され、スキーヤーなどに評判がいい。総工費は約30億円。コロナ禍の時期ではあったが先を見越しての決断と財政の裏づけは野沢温泉スキー場の力強さを物語っていると言えるだろう。
山上のやまびこ駅に降りると平日にもかかわらずカラフルなスキーヤーやスノーボーダーであふれていた。駅そばのレストハウスやまびこも同様で、昼食時分のせいもあったが、満席状態。それも目にする多くは外国からのスキーヤーである。一瞬、ここはスイスかどこか外国のスキー場かと思えるような光景が広がっていた。
野沢温泉スキー場のスキーシーズン(年によって多少異なるが、おおむね12月上旬から翌年の5月上旬まで)における来場者数(野沢温泉スキー場調べ)を見ると、平成29年度(2017~2018)が約40万9100人、同30年度(2018~2019)が約42万1500人と続き、コロナ禍に入って令和元年度(2019~2020)が約34万1800人、同2年度(2020~2021)が約22万2400人、同3年度(2021~2022)が約29万2500人と減少傾向にあったが、4年度(2022~2023)にあたる今シーズンはコロナ感染も落ち着き、海外からの入国制限も緩和されたことなどもあり、国内外からの入場者数が急回復している。
スキー場の話では直近1月の入場者数は対前年で157%となり、、このまま積雪などに大きな変化がなければコロナ禍前の水準に近づくのではないかと予測する。なお、海外からのスキーヤーは野沢温泉観光協会などの統計から見るとおおむね全体の2~3割ほどになっており、地域別ではオーストラリアやニュージーランドなどのオセアニア地域からが65%前後と断トツに多く、次いでアジア地域が25%前後、ヨーロッパ、北米が11%前後となっている(2020~2021年)。

標高は高いがゆるやかな斜面が広がる上ノ平ゲレンデ。雄大な眺望が楽しめる(筆者撮影)
レストハウス横の上ノ平ゲレンデに出てみるとこちらも大賑わいで、日本語と共に英語やフランス語などが飛び交い、青空をバックにそびえる妙高山など美しい景色を望みながらスキーを楽しんでいる。レストハウス周辺は標高が1400メートルほどあるが、一帯はなだらかに傾斜したゲレンデが広がり、小さな子供連れのファミリーなども散見できる。