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【69】「生活保護は権利」を実質的に確立する仕組みづくりを

コロナ禍での貧困拡大に、扶養照会の根本的見直しが急務だ

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

――突然のけがや病気で、医者からは数か月間の静養が必要だと言われている。所持金が尽きかけているので、仕事を探しているが、今の自分の体調だと雇ってくれるところがない。生活保護だけは絶対に受けたくないので、何か他の方法があったら教えてほしい――

遠慮する必要はまったくないと伝えても

 生活困窮者支援の現場では以前から聞く話だが、今年に入り、このような相談をされる機会が増えてきている。そのたびに私たち支援者は、就労が見込めない状況で活用できる制度は生活保護しか存在しないこと、生活保護の利用は権利なので遠慮する必要はまったくないことを伝え、「せめて療養期間だけでも一時的に利用しませんか」と説得を試みているが、それが功を奏することは極めて稀である。

 病を押して働けば、病状が悪化するのは火を見るよりも明らかだ。民間団体で当面の宿泊費や食費を支援することもできるが、その場しのぎにしかならない。ご本人が生活保護の申請を拒み続ければ、医療にもかかれなくなり、近い将来、生命に関わる事態に陥ることも容易に想像できる。

 最近も、そのことを心配していると伝えた人がいたが、その相談者から返ってきた言葉は「生活保護は遺体になっても嫌」というものだった。私は二の句を継ぐことができなくなってしまった。

 なぜ極限の貧困状態に至っても、生活保護の申請を拒むのか。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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