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三浦璃来&木原龍一(りくりゅう)世界選手権優勝の意味と日本のペアの未来

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 2023年3月23日、さいたまスーパーアリーナで開催されていた2023年世界フィギュアスケート選手権で、新たな歴史が刻まれた。三浦璃来(りく)&木原龍一(=りくりゅう)が日本のペアとして初めて、世界タイトルを手にしたのである。

 伊藤みどりが日本人として初めて世界チャンピオンになったのが1989年。あれから女子が新たに5人、男子3人の世界チャンピオンが日本から誕生した。だが日本は男女シングルは強いが、カップル競技はなかなか育たないと言われ続けてきた。その日本のペアが、ついに世界の頂点に立った記念すべき日になった。

ペアで優勝し、メダルを手に記念撮影する三浦璃来、木原龍一組フィギュアスケート世界選手権で、日本でペア初の金メダルを獲得した三浦璃来、木原龍一組=2023年3月23日、さいたまスーパーアリーナ

 SP(ショートプログラム)「You'll never walk alone」では、大きな歓声に包まれながら完璧な演技を滑り切り、80.72と初の80点越えを果たした。

 キス&クライの専用モニターで、一般より少しだけ早く出たスコアを目にした三浦は、驚きと喜びで叫び声をあげた。その時のことを会見で聞かれ、三浦はこう答えた。

 「素直に嬉しいなっていうのが、たぶん爆発したんじゃないかなと思います。ただ自分だけ点数を見られて(いることを知らず)、他の人も(同時に)見られていると思ったので」と少し恥ずかしそうに答え、木原が横から「フライング」と言い添えると、会場は好意的な笑いに包まれた。

ペアSPで演技をする三浦璃来、木原龍一組20230322ペアSP(ショートプログラム)の三浦璃来、木原龍一組=2023年3月22日、さいたまスーパーアリーナ
 SPで80点台を出したのはまだ過去に4組しかおらず、彼らが5組目となる。そのことについて聞かれると、木原はこう謙遜した。

 「歴代で出した方々ははるかに上のレベルの方々。少しでも足元が見えたかなって。ものすごく嬉しいです」

 過去に80点台を出したのは北京オリンピック王者の中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聡(ハン・ツォン)、そしてロシアの3ペアである。ここ1年余り、ロシアの選手が不在の中で、木原はこれまで何度も「自分たちはまだ歴代トップのレベルに達していない」と発言してきた。だがコーチのブルーノ・マルコットは「今の彼らなら、誰とでも十分対等に競っていける」と太鼓判を押した。

喜びよりもミスの悔しさが先立った三浦璃来

ペアフリーで演技をする三浦璃来、木原龍一組世界選手権のフリーで=2023年3月23日、さいたまスーパーアリーナ

 フリーではプレッシャーもあったのか、珍しいミスが出た。三浦がサイドバイサイドのサルコウジャンプで2回転になり、後半のスロウ3ループで転倒したのである。それでも最後まで力強く滑り切った二人に、さいたまスーパーアリーナの観客たちはスタンディングオベーションを与えた。

 三浦はよほど悔しかったのだろう、氷を上がるとマルコット・コーチにもたれかかって号泣した。フリーは141.44で、アメリカのアレクサ・クニエリム&ブランドン・フレイザーに次ぐ2位。それでもSPでの点差で逃げ切り、総合222.16で初優勝をきめた。

 「フリーで気持ちの弱さが少し出たかなと、すごく悔しい思いが今あります」

 三浦は初優勝の感想を聞かれて、喜びよりもまずその悔しさを口にした。普段の練習ではできている技なのに、それがこの大事な試合で見せられなかったことが、やりきれなかったのだろう。

 「でも嬉しいです」と気を取り直して、最後はちょっとだけ笑顔を見せた。

ペアフリーの演技を終え、ブルーノ・マルコット・コーチ(右端)に抱き寄せられる三浦璃来(手前)と木原龍一(左)フリーの演技を終え、ブルーノ・マルコット・コーチ(右)に抱き寄せられる三浦璃来と木原龍一=2023年3月23日、さいたまスーパーアリーナ

 そんな三浦に、マルコット・コーチはどんな言葉をかけたのか。

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