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スポーツ界に求められる「持続可能」という新たな指標

低塩素のプール、折れた剣の再生……それぞれの目標へ取り組みが始動

増島みどり スポーツライター

 プールに足を踏み入れた瞬間、身体に沁みついている刺激臭がない状態に気付かされる。子どもの頃から当たり前のように、プールに入ると鼻のあたりにツンと感じる独特の刺激臭は、たとえ水泳から遠ざかっていても記憶のなかに残っているだろう。

 3月下旬、「丸善インテック大阪プール」(25mプール)では、公立のプールとして全国で初めて導入された水質監修サービス「プールマイスター」(株式会社D&F project)による水泳教室が行われた。

 同社は、独特の刺激臭の原因となる塩素の量を低減する水質改善液を開発。同時に、ろ過装置を含めた メンテナンスをおこなう水質監修サービスを提供する。プール内には刺激臭はなく、水の感触は、まるで温泉に手を入れた時のように柔らかい。

人と環境に優しいプールの試み

 「人と環境に優しい水質」を実感してもらうため、この日は子どもたち、シニア世代と2つの教室で体験会があり、ゲストには、アテネオリンピック男子200mバタフライ銀メダリストの山本貴司(近大水泳部監督)、バルセロナ、アトランタ両五輪に出場し、現在は広く講演活動などを行う千葉すず夫妻が招かれた。2人のレジェンドに水泳を教われるとあって、参加者のモチベーションは高く、予定の時間を大幅にオーバーするほどの賑わいとなった。

低塩素のプールで水泳教室の参加者と話を弾ませる千葉すずさん(手前)=2023年3月、丸善インテック大阪プール。D&Fプロジェクト社提供、©︎D&F project/Wataru Ninomiya拡大鼻にツンとこないプールで水泳教室の参加者と話を弾ませる千葉すずさん(手前)=2023年3月、丸善インテック大阪プール ©︎D&F project/Wataru Ninomiya

 大人数が使用するプールには、消毒、殺菌のために塩素が使われる。塩素消毒は、学校のプール、スイミングスクール、スポーツクラブや温泉など、不特定多数が相当の頻度で利用する場所で、感染を予防する重要な目的のために行われている。厚生労働省が定めるガイドラインでは、管理者側に、循環する水の消毒だけではなく、感染症の原因となる病原菌の増殖を抑制する水質を守るよう、衛生管理が強く求められている。

 感染症を防ぎ、水質を維持して、プールで健康増進をはかる。こうした目的とは反対に、実は塩素消毒の副作用による健康被害の報告はされていた。

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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