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日常化したコロナ禍での貧困拡大

【最終回】いま緊急に必要な三つのこと

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

 2020年春にコロナ禍が日本に上陸して、3年の歳月が経過した。

 私はコロナ禍の経済的影響による急速な貧困の拡大を「貧困パンデミック」と呼んできた。コロナ禍が長期化するにつれ、「コロナ禍での貧困」という切り口での報道は減り、生活困窮者支援活動への社会的関心も薄らいできたが、支援の現場ではコロナ禍に加え、昨年来の物価高騰の影響もあり、3年経った現在も深刻な状況が続いている。

600人超が炊き出しの行列に並んだ

 今年1月28日には、東京・池袋でNPO法人TENOHASIが定期開催している食料支援に集まる人の数が過去最多を更新した。この日の夕方、サンシャインシティに隣接する東池袋中央公園には、602人もの老若男女が弁当を受け取るために列を作り、当初、用意した弁当550食では足りなくなって、急遽、追加の調達をせざるえなくなる、という事態が発生したと聞いている。

困窮者を支援するNPO法人「TENOHASI(てのはし)」のスタッフや食品配布を待つ人ら=2022年12月31日、東京都豊島区昨年の大晦日、困窮者を支援するNPO法人「TENOHASI」の食料配布に多くの人たちが並んだ=東京都豊島区

 TENOHASIの支援活動は2003年から続けられているが、コロナ以前の2019年度に炊き出しに集まる人は平均166人だったので、比較すると3.6倍もの人が集まっている計算になる。2月以降も食料支援に集まる人の数は高止まりしている。

 TENOHASIは路上生活者支援を目的とする団体であるが、2021年頃から同団体に限らず、都内の各ホームレス支援団体が実施している炊き出しに、女性や若者も含めて「おそらく住まいはあるのだろう」と思われる人たちも数多く並ぶという光景が常態化している。また各地で民間団体が実施しているフードパントリーや無料の食料品宅配サービスにも、多くの希望者が殺到している。

 民間の食料支援を求める人が増加し、多様化している背景には、中間層も含めた幅広い層における家計の恒常的悪化という問題が潜んでいると私は分析している。

貧困もパンデミックからエンデミックへ

昨年来、感染症対策の専門家からは、新型コロナウィルスの流行が「パンデミック」期から「エンデミック」期に移行しつつあるとの指摘がなされるようになっている。

 「エンデミック」とは、特定の地域の集団において感染性病原体が恒常的に存在し、流行がふだんから繰り返されることを意味する専門用語である。

 国内の貧困についても、多くの人々が急激な収入減少に直面して、貧困が急拡大する「貧困パンデミック」期から、恒常的に家計のやり繰りに苦しむ人が増え、生活困窮が固定化される「貧困エンデミック」期にフェーズが変わってきているのではないかと私は見ている。

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