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「シルバーデモクラシー論」という虚構

高齢世代と若い層の連帯こそ必要だ

田中駿介 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

 一定以上の収入がある75歳以上の医療保険料引き上げを盛り込んだ健康保険法などの改正案が4月19日の参院本会議で、趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした(朝日新聞デジタル2023年4月13日付)。75歳以上の高齢者の約4割に当たる、年金収入が年153万円を超える人が負担増となる。

 それだけではない。政府は、来たる介護保護の改定で、従来の利用料1割負担を倍の2割負担にするなどの介護保険の負担増を計画している(東京新聞TOKYOWeb2022年10月31付)。これにより、要介護状態の年金生活者にとってはいわば「最後の砦」である特別養護老人ホームなどの施設利用が厳しくなる可能性がある。こうした政策に対して日本ではしばしば「シルバーデモクラシー論」による擁護論が語られる。しかし、これは明らかに虚構ではないだろうか――。

 本稿では、「シルバーデモクラシー論」の陥穽、すなわち世代間格差を強調する「シルバーデモクラシー論」では、経済の格差が隠ぺいされてしまう現実を指摘するとともに、日本とフランスの社会動向の違いを比較しつつ、世代間の連帯を重視した政治のあり方が求められることを強く訴えていきたい。

「シルバーデモクラシー論」の陥穽

 昨今、しばしば耳にする「シルバーデモクラシー論」とは、一般に「高齢者が有権者の中で高い割合を占めることから、政治家が高齢者の利益を優先する現象」であるとされる。たしかに、高齢者と若者では投票率が異なる事実はある。もちろん、選挙では高齢者の投票率が若者の投票率を大幅に上回っている。

神戸市営地下鉄三宮駅のホームに掲示された啓発ポスター。「未来へ羽ばたけ その1票」と、投票を呼びかけている=2023年4月4日、神戸市中央区、鈴木春香撮影神戸市営地下鉄三宮駅のホームに掲示された選挙啓発ポスター。「未来へ羽ばたけ その1票」と投票を呼びかけている=2023年4月、神戸市中央区
 

しかし、これは各政党が若者を無視する理由にはならないだろう。なぜなら、「将来にわたり投票し続ける回数」に着目すれば、将来的な見通しに立てば、若者は高齢者より重要な支持者にもなりうるからである。

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