月森ちゃみ(つきもり・ちゃみ) ライター
日本・世界各地の「観光地」「グルメ」の魅力を多くの人にお届けする旅ライター。発達障害理解を世に伝えるため、当事者としてもNPO団体や発達障害支援センターにて活動中
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
発達障害であることを知ったAさんは会社と交渉し、「障害者雇用」に切り替えて働くようになりました。会社も「働きやすい環境を提供しやすくなる」と、Aさんの決意をすんなりと受け入れてくれたそうです。
清掃部門に異動したAさん。自分のペースで働くことができる大浴場の清掃を担当し、しばらくの間は問題なく働けていました。「与えられた仕事は、ペースを乱されなければ集中して完遂できる」というAさんにとって、大浴場の清掃の仕事はちょうどよい仕事だったのかもしれません。
しかし、しばらくして、また「事件」が起こってしまいました。
大浴場の清掃にはタイムリミットがあり、それまでに終わらせなければなりませんでしたが、当時Aさんに任せられていた清掃業務の量は、毎回、タイムリミットのギリギリにようやく終わるほど多かったと言います。Aさんは普段から「業務量が多い」とマネージャーに伝えていたものの、人材の配置転換などについて、会社は考えてくれなかったようです。
大浴場の営業が終わるのが22時だったため、清掃は22時開始と決められていましたが、その日、Aさんは「早く清掃を終わらせるために」10分早くから掃除を始めてしまいました。そのAさんの姿を見て、浴槽を清掃する他部署の男性スタッフが大浴場に入ってきたところ、まだ女性客が着替えていたため、Aさんは「まだお客様がいます」と浴槽の清掃スタッフたちに伝えます。すると1人の女性スタッフが「何で先に言わないのよ!」と声を荒げました。それに「カーッとなった」Aさんは、思わず大声でまくしたててしまいました。
その「事件」の後、人事部と面談をしたAさんは、「感情を抑えられない状態では、お客様にも迷惑をかけてしまう。だから今は病院に行って、治療に専念した方がいい」と言われてしまいます。さらに、「もっとAさんの発達障害を理解してくれる会社がある」と、「辞めてくれ」とは言わないものの、やんわりと転職を勧められてしまいました。
休職・退職ともにしたくなかったAさんでしたが、会社側はAさんが職場復帰することを認めなかったので、しぶしぶAさんは休職期間に入ります。会社からは「戻る場所はない」「Aさんの居場所はない」と言われ続けたため、転職活動を始めたものの、結果はなかなか出ませんでした。
ハローワークに相談に行くと、「それは退職勧奨されているようなものだから、労働基準監督署に相談した方がいいですよ」とアドバイスされたAさん。労働基準監督署の職員にも、「監督署としては、退職させないでください、としか言えません」と言われました。
最後の「頼みの綱」である労働組合に相談に行ったところ、ようやくAさんは復職できたと言います。しかし労働組合に所属している社員は、「私のことを思って復職のために動いてくれたわけではなかったと思います」と話すAさん。というのも、労働基準監督署と労働組合の間で何らかのやり取りがあったことを知ったから。
つまり、労働基準監督署と労働組合、両方に相談したからこそ、Aさんは復職できたのです。
Aさんは今春から他の企業に転職することが決まりました。そこでは障害者雇用としてではなく、正社員雇用で働くのだと言います。なぜでしょうか。
「障害者として転職活動をしても、希望の会社・職種で受かるのは難しいことを知ったためです。何社も受けましたが、すべて書類選考で落ちてしまったんです。そうとなればもう、発達障害者であることを隠して転職活動するしかありませんでした。もうこれ以上、あの会社にはいたくありませんでしたから」
発達障害者に対して「もっと理解してほしい」というAさん。「発達障害者であることを隠さずに言える世の中になってほしいです」。
Aさんは日頃から、発達障害者である自分を克服しようと、ライフハックを見つけようと努力されているそうです。「コミュニケーションの練習をするために、訓練をしてくれる発達障害者向けのNPOに通うことも考えています。私がしてほしいことを周囲にお願いするだけではダメかな、と思うので」と話してくれました。
最初にも述べましたが、私も発達障害です。Aさんの発言には共感するとともに、社会全体がより発達障害当事者への理解を進めてくれるよう、願うばかりです。