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「独裁者」賞めぐり揺れるユネスコ、問われる国連の真価

土井香苗

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

 「世界遺産」の指定で有名な国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)。そのユネスコが、「独裁者」賞をめぐり、大揺れに揺れている。ことの発端は、ユネスコが2008年、生活の質の改善を表彰する新たな賞を創設したためである。その賞の名は「オビアン・ンゲマ・ムバソゴ生命科学研究国際賞」。

 西アフリカの独裁者として有名な赤道ギニアのオビアン大統領が自らの名を冠して創設を呼びかけた賞で、3億円相当の資金も同大統領が拠出した。ユネスコ側も、「人類の生活の質を向上させる科学功績」をした個人らを表彰することで、それを「発展させるのがユネスコの主要な業務のひとつだから」と創設に同意した。しかし、この「独裁者」賞は、人権を尊重する国連の原則をまったく無視した賞である。ノーベル平和賞受賞者であるデズモンド・ツツ大主教などの著名人をはじめ、世界各地から270の団体がこの賞を廃止するようユネスコに求める騒ぎになっている。(詳細はこちら

賞の創設の影で苦しむ赤道ギニアの国民

 賞の創設理由とはうらはらに、オビアン大統領は、赤道ギニア国民の生活の質を向上させていないし、国民の基本的人権を尊重していない。サハラ以南で第4の産油量を誇る赤道ギニアでは、90年代に原油が発見されて以降、1人当たりの国内総生産(GDP)は5,000%も上昇し、今では日本に迫る勢いだ。しかし、多くの汚職と政府の失策ゆえに、大部分の国民は今も1日1ドル以下で暮らしている。多くが清潔な水さえ飲めず、貧困ライン以下の生活を送る国民が全人口の75%以上にのぼることを赤道ギニア政府も認めている

 オビアン大統領は、大規模汚職で悪名高い。2004年と2010年に米国上院常任小委員会が行った調査で明かにされた証拠によると、大統領とその直近親族たちは、天然資源から得られた富から多額を横領している。例えば、オビアン大統領は、そうしたお金で3億8千万円相当の豪邸2件をワシントンDCの郊外に購入したといわれており、現在スペインの司法が、オビアン大統領の刑事訴追にむけた捜査を開始している。

 オビアン大統領の長男も、本来なら国民の教育や医療のために使われるべきお金で、自らの懐を肥やしている。大統領の長男は、2006年にカリフォルニアで35億円相当の買い物をしている。彼の収入といえば、月々40万円相当の政府からの給料だけのはずであるが、なぜのこのような豪勢な買い物ができるのだろうか。

 また、国連の人権専門家たちも、オビアン政権下で、警察による野党勢力の弾圧や、裁判なしの無期限拘禁や拷問が横行している、と批判を続けている。表現の自由の弾圧や、経済的権利や社会的権利の無視も批判の的だ。

 こんなオビアン大統領の行状は、人権、教育、そして表現の自由の促進を謳うユネスコ憲章とも相容れないのは明白だ。

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