小北清人(こきた・きよひと) 朝日新聞湘南支局長
朝日新聞入社後、大阪社会部、AERA編集部などを経て現在、朝日新聞湘南支局長。92~93年、韓国に語学留学。97年、韓国統一省傘下の研究機関で客員研究員。朝鮮半島での取材歴多数。
小北清人
携帯電話が鳴った。お、あの先生である。あの先生の電話は、後になって、「あ……そういえば、あの時確かに聞いた」と感嘆させられることが多い。筋金入りの北朝鮮研究者である。
「例の北朝鮮の魚雷だがね、国連でなんだかんだやってるが、まあ新たな制裁が課せられることはないわな。やられた韓国がいろいろやってるが、いまさら北に逆襲も出来まい。つまり、北がこの件は韓国に勝ったということだよ」
3月26日夜、韓国海軍の哨戒艦「天安」が朝鮮半島西海岸沖の黄海上で沈没、乗組員46人が死亡した事件のことである。当事者の韓国をはじめ米、英、スウェーデンなどで作る調査委員会は「天安」の残骸を引き揚げる一方、現場付近の海底残留物を集め分析。調査委は5月20日、「北朝鮮による魚雷攻撃で爆発、沈没した」と発表した。
これに北はいつもの通り、「韓国のでっち上げだ。われわれは被害者だ」と反論、国連でもそう言い続けている。
さて、先生は話を続ける。
「制裁も何もなく、事実上、自由放免になったら、北の指導部はどう思うだろうか。わかるかね。いいかね、核の抑止力だよ。核の抑止力が効いていると思うだろうよ」
……え?
「わからん奴だな。北は核実験を2度もしたじゃないか。いまも原爆を持っている。その核抑止力があるからこそ、韓国がどんなにいきり立とうと、米国がさんざん騒ごうと、結局何もできないのだと北は考えるだろう」
……ということは?
「これから正体不明の怖いことがいろいろ起きるかもしれないということだ。韓国でも、米国でも、そして日本でも。下手人は誰かって? 核兵器のおかげで攻撃されることはないとタカをくくったあの国だ」
電話はそこで切れた。
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