谷田邦一
2010年06月24日
ベトナム戦争時代から使う古めかしいヘリコプターや輸送機。でこぼこに波打ち老朽化した滑走路――。
沖縄・普天間飛行場の映像から伝わる米海兵航空部隊のイメージが、今後10年で驚くほどの変貌を遂げそうだ。日米両政府は国内向けにほとんど説明していないが、実は今世紀最大の海兵隊の増強計画が進められている。同飛行場の移設問題は、オバマ大統領の譲歩を引き出せず、迷走の末に自民党政権がつくった現行案に回帰して終わった。米側はこんな小さな基地になぜ徹底してこだわったのか。理由の一端は、この計画の推進と深い関わりがありそうだ。
在日米軍の基地は現在、全国に85ヶ所。米国防総省が毎年公表している米軍基地の「資産価値リスト」によると、普天間のインフラ価値は、嘉手納(沖縄)や三沢(青森)、横須賀(神奈川)などに比べずっと低く、20位前後。普天間が重視されるゆえんは、施設そのもののではなく、海兵隊の作戦運用上の重要性にあるようだ。
報道を通じて知る普天間の目新しい動きといえば、「オスプレイ(MV22)」と呼ばれる新型輸送機が、旧式のCH46中型輸送ヘリに代わって導入されることくらい。オスプレイは、垂直離着陸ができると同時に固定翼機のように高速で飛行できるのが特徴だが、その沖縄配備について日米両政府は慎重に言及を控えている。
なぜなのか。「移設だけでも大変なのに、機種変更となるとさらに地元の理解が得られにくくなる」と防衛省の担当者は明かす。しかし米海兵隊が昨年10月に公表した中長期の「海兵航空計画」をよく読むと、変化は一部機種の更新というレベルにとどまらず、巨大な計画がすでに世界規模で進行していることがわかる。
それによると、海兵隊は世界に展開する1千機を超す航空機のほぼ全機種を今後10年でそっくり最新鋭機に更新するというものだ。米国に2つ、日本に1つある海兵航空団のうち、すでに米本土から順次、入れ替えが始まっている。
狙いはアフガニスタンやイラクでの作戦の教訓を踏まえた「即応性や機動性の向上」。各機種の航続距離や速度が大幅に伸びるほか、通信機器や航法装置が最新式になり、レーダーに映りにくいステルス機も導入される。20年代半ばの更新完了時には、全体で航空機約100機、兵員約5千人が増える。
日本では、ヘリ中心の普天間と戦闘機中心の岩国(山口)の2つの海兵航空基地に影響が及ぶ。およそ10機種のほぼすべてが新型に更新される。ベトナム戦争以来、40年前後使っている普天間のCH46はオスプレイに、20年前後使っている岩国のFA18戦闘機は空爆や電子戦も可能なステルス戦闘機のF35B(ライトニングⅡ)に、その他の給油機や戦闘ヘリもエンジンや装備が大型化され新型になる。
オスプレイは24機、F35Bは16機が常駐する見込みだが、米本土からもローテーションで同型機の部隊が飛来することになる。
計画では、更新が始まるのはオスプレイが2013米会計年度(12年10月~)、F35が16米会計年度(15年10月~)。開発段階にあるF35については、米空軍長官が今年3月、配備が予定より2年遅れ、05年になるとの見通しを明らかにしている。
背景には海兵隊戦略の航空戦力重視がある、と専門誌「軍事研究」編集長の河津幸英氏は指摘する。
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