高成田享
2010年06月29日
私の住む宮城県石巻市の人たちは鯨肉が大好きだ。三陸海岸に突き出た牡鹿半島の先端にある石巻市鮎川は昔からの沿岸捕鯨の基地で、沿岸で獲れたクジラの新鮮な肉を地域に供給してきたからだろう。私も刺身からハリハリ鍋やすき焼きまで、さまざまなクジラ料理を楽しんでいる。
そんな地域だから、捕鯨問題への関心も高く、21日からモロッコで開かれていた国際捕鯨委員会(IWC)総会への期待も大きかった。総会の前に出された議長案には、日本の沿岸捕鯨の再開が盛り込まれていたのだから、悲願達成への思いが強くなったのも当然だろう。ところが、総会は、豪州など反捕鯨国の抵抗が強く、議長案での合意はできず、「冷却期間を置く」ということで、来年以降の総会に持ち越されることになった。地元の捕鯨会社の代表は「それぞれの国内事情を考えれば合意は難しいと思ったが、先送りの結論にはがっかり」と、失望の色を隠さなかった。
議長案は、日本の調査捕鯨、米国などの先住民による生存捕鯨、商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を認めないノルウェーやアイスランドの捕鯨など、さまざまな形で続いている捕鯨を、IWCがあらためて包括的に限定して管理しようというもの。日本に対しては、南極海での捕鯨頭数を削減する見返りに、沿岸での捕鯨を認めるとしていた。
1982年にモラトリアムが決議されて以来、科学的にはミンククジラなどの資源は十分にあることが認められているのに、反捕鯨国の反対でモラトリアムが解除されず、捕鯨再開のめどが立っていない。今回の議長案は、商業捕鯨の再開を認めるものの、捕獲数を限定することで、捕鯨国と反捕鯨国との不毛な争いに終止符を打つのが狙いだった。
「IWC決裂」などと聞けば、相変わらずかという印象だろう。しかし、今年の総会の対立は、相変わらずの捕鯨国vs反捕鯨国という面ばかりではなく、議長の出した提案に沿った妥協を認めるかどうかで、妥協派vs原理派の争いという側面もあった。というのは、議長案の背後には、反捕鯨国の米国と捕鯨国の日本の双方が歩み寄りたいという意欲があったからだ。総会での議論でも、妥協をさぐる日米などに対して、捕鯨は絶対反対という豪州など原理派が抵抗して、結論を先送りさせたようだ。
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